2011年度の展覧会

没後150年記念 破天荒の浮世絵師 歌川国芳

「通俗水滸伝豪傑百八人之一個 旱地忽律朱貴」
特別展
2011年6月1日(水)~7月28日(木)
前期(豪傑なる武者と妖怪):6月1日(水)~6月26日(日)
後期(遊び心と西洋の風):7月1日(金)~7月28日(木)
※前後期で展示替え

6月6・13・20・27~30日/7月4・11・19・25は休館となります。

主催:太田記念美術館・NHK・NHKプロモーション

展覧会の概要

江戸時代後期を代表する浮世絵師、歌川国芳(1797-1861)。幕府の財政が逼迫し世情が不安定だった当時、その閉塞した社会状況を打破するようなパワフルな武者絵やユーモラスな戯画を描いて大衆の喝采を浴びたのが国芳でした。浮世絵といえば、歌麿、写楽、北斎、広重のような江戸情緒あふれる作品を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが、国芳は私たちが抱いている浮世絵の常識を覆してくれる破天荒な作品の数々を生み出していたのです。
かつて国芳は浮世絵の専門家からも十分な評価を受けていませんでしたが、近年、近代感覚あふれる斬新な造形性が再評価され、現代の若者たちをも魅了するようになりました。その人気は海外にまで広まり、2009年にはロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで、2010年にはニューヨークのジャパン・ソサエティー・ギャラリーで大規模な展覧会が開催され、大きな反響を呼びました。
今年は歌川国芳の没後150年にあたります。これを機に開催する本展覧会では、武者絵や妖怪画からなる【前期 豪快なる武者と妖怪】と、戯画や洋風画からなる【後期 遊び心と西洋の風】という二部構成に分け、多岐にわたる国芳作品の魅力を全く異なる二つの角度から紹介いたします。現代もなお私たちを圧倒してやまない「破天荒の浮世絵師」、歌川国芳のパワーを実感し、その芸術世界をご堪能ください。
「相馬の古内裏」

「相馬の古内裏」(個人蔵)(前期展示)

展覧会の構成

前期(豪傑なる武者と妖怪):6月1日(水)~6月26日(日)

1.〈勇〉武者絵
画面が爆発するような激しい力に溢れた武者絵は、国芳にとって一番の得意ジャンルです。『水滸伝』に登場する豪傑たちを描いた「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」というシリーズが大ヒットして以降、国芳が次々と描く躍動感あふれる武者たちの雄姿に江戸っ子たちは熱狂したのです。
「通俗水滸伝豪傑百八人之一個 旱地忽律朱貴」

「通俗水滸伝豪傑百八人之一個 旱地忽律朱貴」
(個人蔵)(前期展示)

「通俗水滸伝豪傑百八人之一人 花和尚魯知深初名魯達」

「通俗水滸伝豪傑百八人之一人 花和尚魯知深初名魯達」
(太田記念美術館蔵)(前期展示)

2.〈怪〉妖怪画 
人間に襲いかかる巨大な骸骨。メタリックな鱗を持つ巨大な魚。漆黒の彼方から突如現れる妖怪。空想力抜群の国芳の手になる妖怪や怪獣たちはパワフルで独創的です。今まで見たことのない空想の世界に江戸っ子たちは驚き、感嘆の声をあげました。現代の妖怪ブームのルーツが国芳にあると言ってもよいでしょう。
「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」

「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」(個人蔵)(前期展示)

「小子部栖軽豊浦里捕雷」

「小子部栖軽豊浦里捕雷」(個人蔵)(前期展示)

「碓井又五郎飛騨山中打大猿」

「碓井又五郎飛騨山中打大猿」
(個人蔵)(前期展示)

「鬼童丸」

「鬼童丸」(個人蔵)(前期展示)

3.〈華〉役者絵
江戸時代の歌舞伎役者たちは今風に言えばイケメンの人気スター。その華のある凛々しい姿だけでなく、身にまとった粋で伊達なファッションは、江戸の女性たちの心を魅了したことでしょう。
「達男気性競 金神長五郎」

「達男気性競 金神長五郎」(個人蔵)(前期展示)

「達男気性競 白井ごん八」

「達男気性競 白井ごん八」(個人蔵)(前期展示)

後期(遊び心と西洋の風):7月1日(金)~7月28日(木)

4.〈遊〉戯画 
ユーモアとウィットが満載の戯画こそ、江戸っ子国芳の真骨頂。天保の改革という幕府の禁制をかいくぐって閉塞した社会を笑いのめそうとする、庶民たちの「笑いの文化」がそこにはあります。遊びの精神にあふれた奇妙奇天烈な造形表現も見逃せません。
「荷宝蔵壁のむだ書」

「荷宝蔵壁のむだ書」(個人蔵)(後期展示)

「人をばかにした人だ」

「人をばかにした人だ」(個人蔵)(後期展示)

「通俗水滸伝豪傑百八人之一人 花和尚魯知深初名魯達」

「里すずめねぐらの仮宿」(太田記念美術館蔵)(後期展示)

「流行猫の曲手まり

「流行猫の曲手まり」(個人蔵)(後期展示)

「其面影程能写絵 猟人にたぬき金魚にひごいっこ」

「其面影程能写絵 猟人にたぬき金魚にひごいっこ」(個人蔵)(後期展示)

5.〈爽〉美人画
浮世絵といえば誰もが思い浮かべるのが美人画。国芳が描く美人たちは、頽廃的な匂いの無い健康で爽やかな風貌です。垢ぬけたファッションに身をつつんだ、気持ちのさっぱりしたおきゃんな娘たちの姿に思わず親しみがわいてきます。
「大願成就有ヶ瀧縞 金太郎鯉つかみ」

「大願成就有ヶ瀧縞 金太郎鯉つかみ」(個人蔵)(後期展示)

「山海愛度図会 ヲゝいたい」

「山海愛度図会 ヲゝいたい」  (個人蔵)(後期展示)

6.〈憧〉洋風画 
異国に憧れた国芳は長崎を通してもたらされた西洋の銅版画から、人物のポーズやモチーフの形、陰影の表現を貪欲に学びました。国芳の洋風表現の典拠となった17世紀オランダの書物『東西海陸紀行』を合わせて展示し、国芳がいかに西洋絵画を咀嚼し自分の表現としたかを検証します。
「近江の国の勇婦於兼」

「近江の国の勇婦於兼」(太田記念美術館蔵)(後期展示)

「二十四孝童子鑑 薫永」

「二十四孝童子鑑 薫永」(個人蔵)(後期展示)

展覧会の見どころ

1.国芳の代表作が勢ぞろい ~骸骨、スカイツリーから猫まで

巨大な骸骨が襲いかかってくる「相馬の古内裏」(前期展示)、スカイツリーを思わせる謎の塔が描かれた「東都三ツ股の図」、猫たちが集まって文字をかたどった「猫の当字 かつを」(後期展示)など、国芳の代表作を含めた240点以上の作品が出品します。
「東都三ツ股の図」

「東都三ツ股の図」(個人蔵)(後期展示)

「猫の当字 かつを」

「猫の当字 かつを」(個人蔵)

2.前期と後期で全く異なる展示内容 ~二つのテーマで国芳の魅力に迫る

国芳の作品の魅力は一言で説明することはできません。そこで本展では、武者絵や妖怪画からなる【前期 豪快なる武者と妖怪】と、戯画や洋風画からなる【後期 遊び心と西洋の風】という二部構成とすることで、国芳の特色をよりはっきりと浮かび上がらせます。国芳作品の幅広さがより体感できることでしょう。(前期後期で全て展示替えを致します。)

3.80年ぶりに発見された話題の作品を展示

「かさねのぼうこん」(個人蔵)(7/1~7/18展示)

「かさねのぼうこん」(個人蔵)(7/1~7/18展示)

昨年8月、80年ぶりに発見されたことで話題となった、「かさねのぼうこん」(個人蔵)が展示されます。女性の幽霊を寄せ絵の手法でユーモラスに描いた作品で、国芳の奇抜な発想が見事に表現されています。(展示期間:7/1~7/18)

4.国芳の西洋画のお手本を紹介  ~最新の研究成果の公開

近年の研究で、国芳がオランダの書物『東西海陸紀行』(個人蔵)を手本として、自らの作品にそのモチーフを取り組んでいたことが明らかとなりました。本展では『東西海陸紀行』を国芳の作品と合わせて展示し、国芳と西洋画との関わりを探ります。(後期展示)
『東西海陸紀行』

『東西海陸紀行』(個人蔵)(後期展示)

「東都名所 浅草今戸」

「東都名所 浅草今戸」(太田記念美術館蔵)(後期展示)

5.国芳自筆の貴重なデッサンを一挙公開  ~所狭しと描かれた役者たち

5m近くに及ぶ絵巻の中に、所狭しと歌舞伎役者たちを描いたデッサン、「国芳芝居草稿」(個人蔵、前期展示)を全図一挙に紹介いたします。その達者な描写力に、国芳の修練の跡を感じることができるでしょう。(前期展示)
「国芳芝居草稿」

「国芳芝居草稿」(個人蔵)(前期展示)

入館料

リピーター割引あり (会期中2回目以降にご鑑賞の方は、半券と引換にて100円割引)

一般1000円
大高生700円
中学生以下無料
開館日カレンダー
カレンダー

大江戸ファッション事始め

溪斎英泉「美艶仙女香」
企画展
2011年4月1日(金)~5月26日(木)
前期:2011年4月1日(金)~4月26日(火)
後期:2011年5月1日(日)~5月26日(木)
※前後期で展示替え

4月4・11・18・25・27~30日/5月2・9・16・23日は休館となります。

はじめに

奥村政信「佐野川市松の人形遣い」

奥村政信「佐野川市松の人形遣い」(前期展示予定)

あらゆる流行が生まれては消えていく現代においても、私たちを魅了し続ける着物。日本の誇るこの服飾文化が大きく花開いたのが江戸時代でした。泰平の世が続くなか、一部の特権階級だけでなく、経済的に裕福になった町人たちも「装いを楽しむこと」に情熱を傾けるようになったのです。厳しい身分制度にも関わらず、ときには武家より町の女性たちのほうが、高価な素材や技術を凝らした衣服を身につけることさえありました。江戸幕府はたびたび贅沢な装いを禁止する法令を出しましたが、人々は裾模様や裏模様などを工夫してファッションを楽しんでいたのです。
当時の風俗を写した浮世絵からも、あらゆる階層の人々が装うことに喜びを見出していたことが伝わってきます。浮世絵師たちは、季節やイベントによって異なる着こなしの様子や、簪や帯といった小物へ向けられる女性たちのこだわりを描き留めています。画中に見られる色や柄の合わせ方も実に多彩で、髪型やメイクも多種多様です。江戸の人々にとって、ファッションが生活を彩る重要な要素であったことがうかがわれます。
本展では浮世絵を通して、日本人の感性が育んだ服飾文化の魅力に迫ります。浮世絵に描かれる江戸っ子の多彩なファッションから、着こなしのテクニックを盗んでみるのも楽しいかもしれません。

1.江戸のファッションリーダー ―歌舞伎役者VS花魁―

溪斎英泉「美艶仙女香」

溪斎英泉「美艶仙女香」(前期展示予定)化粧にいそしむ女性。唇を玉虫色に光らせる笹紅の例。

江戸時代のスターであった歌舞伎役者と花魁のファッションは、大きな影響力を持ちました。たとえば市松模様は歌舞伎役者、佐野川市松が用いた石畳模様に由来します。ほかにも江戸紫など、役者が好んだ色や模様で庶民に愛されたものは枚挙にいとまがありません。花魁が身につける高価なアクセサリー、髪型や化粧法は女性たちの羨望の的であったでしょう。偽鼈甲の登場や、遊女が紅を重ねて唇を玉虫色に光らせた笹紅という化粧法の流行などがみられました。

溪斎英泉「美艶仙女香」

鳥高斎栄昌「扇屋見世略」(後期展示予定)妍を競う三人の遊女。
同じ妓楼の遊女たちだが着物の色や柄はもちろん、髪型や帯の締め方、素材まで三者三様。

2.四季の装い ―シーン別着物の着こなし―

江戸時代には端午(5月5日)や重陽(9月9日)の節句を区切りに四回の衣替えが行われ、衣服によって季節感を表す習慣が普及していました。花見にあわせて新しい小袖をあつらえ、夏には涼やかな浴衣で夕涼みにでかけ、残暑の残る秋には団扇片手に月見や萩見。冬には防寒用の頭巾もおしゃれのアイテムとして活躍します。季節による着物の素材や着こなしの変化を、江戸っ子が大いに楽しんでいたことを伝えてくれます。
歌川国貞「江戸名所百人美女 三囲」

歌川国貞「江戸名所百人美女 三囲」(前期展示予定)

歌川広重「東都名所両国夕すゞみ」

歌川広重「東都名所両国夕すゞみ」(後期展示予定)

歌川国貞「歳暮の深雪」(前期展示予定)

歌川国貞「歳暮の深雪」(前期展示予定)

3.小物大好き! ―こだわりを競う―

現代の私たちは様々な小物も自分の好みにあったものを選びおしゃれを楽しみますが、それは江戸っ子も同じです。黒髪を飾る櫛や簪、着こなしのアクセントとなる襟や帯、はては頭巾や手拭い、下駄にいたるまで、小物へのこだわりを存分に発揮しています。
喜多川歌麿「当世美人三遊 芸妓」

喜多川歌麿「当世美人三遊 芸妓」(前期展示予定)上品な色合いの裾模様の振袖に身を包んだ女性。頭巾の黒色が肌の白さを際立たせる。

溪斎英泉「逢妓八契(おうぎはっけい)富ヶ丘の時雨」

溪斎英泉「逢妓八契(おうぎはっけい)富ヶ丘の時雨」(後期展示予定)格子柄に春蘭の裾模様の小袖を着た芸者。注目ポイントは天使柄の帯。

歌川広重「東海道五十三次図会 亀山」

歌川広重「東海道五十三次図会 亀山」(前期展示予定)櫛を選ぶ女性の目は実に真剣。

4.男の装い

歌川国貞「梨園侠客傅 土左衛門傅きち ばん東かめ蔵」

歌川国貞「梨園侠客傅 土左衛門傅きち ばん東かめ蔵」(後期展示予定)

男性たちもまたファッションに情熱を注ぎました。あらゆる文化の発信源であった吉原に通う男性に向けては、いかにスタイリッシュに装うべきかを指南したスタイルブックまで刊行されています。一方で「火事と喧嘩は江戸の華」ということばに象徴されるように、威勢が良く男気にあふれた男性も江戸っ子には好まれました。浮世絵に描かれる、趣向を凝らした袢纏や羽織、手拭いを身につけた粋な男達は、こうした江戸っ子の好みを反映しています。

<見どころの一点>
勝川春潮 「橋上の行交」天明~寛政年間(1781~1801)頃 (後期展示予定)

写真サンプル

橋の上ですれ違いざまに視線をかわす3人の若い男女。江戸時代も中期以降になると縞や裾模様などの渋いデザインが人気となります。男性は紫の羽織に縞の小袖。渋い着こなしを帯と鼻緒の赤が引き立てます。黒い頭巾を襟に巻くのも当時のおしゃれでした。頭に挿すのは、亀戸天神境内にある妙義社の縁日で授けられた雷除けのお守り。人が溢れるイベントの日、江戸の人々もおしゃれをして出かけたことがわかります。対する女性陣も負けてはいません。横の髪を燈籠の笠のように広げた灯籠鬢(とうろうびん)や黒い掛襟はこの頃から流行したもの。若者が流行に敏感であったのは今も昔も変わらないようです。

入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
開館日カレンダー
カレンダー

歌川芳艶 ~知られざる国芳の門弟

「両国大花火の図」
企画展
2011年8月2日(金)~8月26日(金)

8月8・15・22は休館となります。

※8月展示のリーフレット「歌川芳艶~知られざる国芳の門弟」は完売いたしました。

受け継がれる国芳魂

末の浮世絵師、歌川芳艶(うたがわ・よしつや)。歌川国芳の門弟の一人として活躍しましたが、月岡芳年や落合芳幾など才能ある同門たちの存在に隠れてしまい、現在では浮世絵の研究者たちの間でさえもその名前はほとんど知られておりません。しかしながら、師匠である国芳の画風を継承した芳艶の武者絵の数々は、時には国芳を越えんばかりの迫力に満ち溢れています。国芳の武者絵の才能をもっとも受け継いだのが、この芳艶であったと言えるでしょう。本展は、歌川芳艶という知られざる浮世絵師の全貌に迫る、世界で初めての展覧会です。
「破奇術頼光袴垂為搦」(個人蔵)

「破奇術頼光袴垂為搦」(個人蔵)

「大江山酒呑退治」(個人蔵)

「大江山酒呑退治」(個人蔵)

芳艶の武者絵の代表作を一挙公開

芳艶は師匠である国芳の画風を継承し、画面からはみ出さんばかりの独特の迫力ある武者絵を制作しました。芳艶の武者絵の代表作を一挙に公開します。
「為朝誉十傑(鎮西八郎と四頭九郎)」(個人蔵)

「為朝誉十傑(鎮西八郎と四頭九郎)」(個人蔵)

「為朝誉十傑(白縫姫と崇徳院)」(個人蔵)

「為朝誉十傑(白縫姫と崇徳院)」(個人蔵)

「文治三年奥州高館合戦白衣川白竜昇天」(個人蔵

「文治三年奥州高館合戦白衣川白竜昇天」(個人蔵

知られざる芳艶の全貌に迫る初の試み

芳艶の代表作となるのは武者絵ですが、それ以外にも美人画や風景画、戯画、役者絵などさまざまなジャンルを手掛けています。従来まったく紹介されることのなかった芳艶の画業の全貌を初めて紹介します。
「両国大花火の図」(太田記念美術館蔵)

「両国大花火の図」(太田記念美術館蔵)

「東海道 程ヶ谷 其二」(太田記念美術館蔵)

「東海道 程ヶ谷 其二」(太田記念美術館蔵)

「当世流行百面相」(個人蔵)

「当世流行百面相」(個人蔵)

<展覧会の見どころの>
「両賊深山妖術競之図」(個人蔵)

「両国大花火の図」(太田記念美術館蔵)

「両国大花火の図」(太田記念美術館蔵)

時は平安時代。鬼童丸(きどうまる)と袴垂保輔(はかまだれ・やすすけ)という二人の妖術使いが、妖術合戦を繰り広げています。左の鬼童丸が炎と大蛇を繰り出せば、右の保輔は負けじと大水と大鷲で対抗。うねるようにしてぶつかり合う炎と水の表現は、師である国芳を上回らんばかりの迫力に満ち溢れています。
入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
開館日カレンダー
カレンダー

江戸のパワースポット

歌川広重「名所江戸百景 王子不動之瀧」
企画展
2011年9月1日(木)~9月25日(日)

9月5・12・20日は休館となります。

※9月展示の図録は作成いたしません。

はじめに

近年、癒しや運気アップを求めて、パワースポットと称される各地の神社仏閣や自然豊かな景勝地を訪れることがブームとなっています。実は江戸の人々も、パワースポットを訪れることを大いに楽しんでいました。霊験あらたかな場所に出かけること、それは信仰心を満たすと同時に、非日常の空間を楽しむ行楽としても重要なイベントだったのです。
江戸時代も中期以降になると、街道が整備され、旅が少しずつ庶民にも親しみのあるものとなってきました。そうした風潮を背景に、江戸の人々は富士山や江ノ島、伊勢神宮や讃岐の金毘羅へ参詣に向かいました。巡礼の旅のなかで人々は日常からの開放感を満喫し、心身をリフレッシュさせたことでしょう。
現代よりも信仰の場が身近に感じられた江戸時代。当時のくらしと密接に関わりながら愛でられた江戸のパワースポットを浮世絵のなかに巡りつつ、その魅力に触れていただければ幸いです。

江戸の町のパワースポット

江戸の一年をみると、お正月の近所の氏神様や恵方神を参拝する初詣にはじまり、ほぼ毎日のように祭礼や開帳などの行事がありました。さらに人々は寺社仏閣だけでなく山や滝も信仰の対象として畏れ敬い、こぞって参拝に訪れました。老若男女を問わず、日々の生活は信仰と深く密着していたのです。そうした当時の暮らしの様子が、浮世絵のなかにはいきいきと活写されています。
溪斎英泉「東都名所尽 芝神明宮祭礼 生姜市之景」

溪斎英泉「東都名所尽 芝神明宮祭礼 生姜市之景」
秋祭りの最後を飾る、芝神明の祭礼に集まる群衆。生姜が名物であることから生姜祭の名もあった。

歌川広重「名所江戸百景 虎の門外あふひ坂」

歌川広重「名所江戸百景 虎の門外あふひ坂」
葵坂は虎ノ門から赤坂に向かう坂。下着姿で提灯を持ち歩く親子は、坂下にある讃岐丸亀藩京極家邸内の金毘羅社へ技量上達の寒参りに行くところ。

歌川広重「名所江戸百景 王子不動之瀧」

歌川広重「名所江戸百景 王子不動之瀧」
病人が滝浴みすると治癒すると言われていた王子不動の滝。
滝壺に入る人物が見える。

巡礼の旅 -全国のパワースポット-

街道の整備にともない、徐々に旅をすることが庶民にも手に届くものとなってきました。現在でもパワースポットとして大人気の伊勢神宮は、江戸の人々にとっても憧れの場所。伊勢参拝の様子を描く浮世絵からは、人々の熱気が伝わってきます。他にも浮世絵には、信仰を集めた諸国のパワースポットが多数描かれています。旅に出ることができない人々は、こうした浮世絵を見て霊場に心遊ばせたのではないでしょうか。
歌川広重「相州江の島弁財天開帳詣 本宮岩窟の図」

歌川広重「相州江の島弁財天開帳詣 本宮岩窟の図」
技芸上達の神とされる江の島弁財天。6年に一度の開帳の際には、本宮の岩屋を人々が取り巻くほど賑わいを見せた。

歌川国貞「二見浦曙の図」

歌川国貞「二見浦曙の図」
現在でも有名な伊勢の夫婦岩。朝日が神々しく光を放つ。

北尾重政「浮絵安芸国伐伯郡厳島図」

北尾重政「浮絵安芸国伐伯郡厳島図」

歌川広重「伊勢参宮 宮川の渡し」

歌川広重「伊勢参宮 宮川の渡し」

河鍋暁斎「東海道名所之内 那智ノ瀧」

河鍋暁斎「東海道名所之内 那智ノ瀧」
古来ご神体として信仰を集めた那智の滝。
デフォルメされた描写も面白い。

<見どころの一点>
葛飾北斎「冨嶽三十六景 諸人登山」

葛飾北斎「冨嶽三十六景 諸人登山」

白装束で山岳を登り、あるいは座って休息する男性たち。右上の薄暗い岩室の中では大勢の人がぎゅうぎゅう詰めになっています。描かれるのは富士講の人々が富士山の噴火口を巡る「おはち参り」の様子。本図は富士を描いた名作、葛飾北斎「冨嶽三十六景」シリーズの一図であり、富士登山に挑む人々の姿を捉えたものです。富士信仰がさかんとなった江戸時代、多くの人々が富士講という宗教組織を組み、富士山へ登りました。とくに街道が整備され、庶民にとっても徐々に旅行が身近になった19世紀以降、富士信仰はさらに隆盛を迎えブームとなります。「冨嶽三十六景」が制作された背景には、こうした風潮が存在しているのです。

入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
開館日カレンダー
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浮世絵戦国絵巻 ~城と武将

大蘇芳年「太平記美濃霧中大合戦」
特別展
2011年10月1日(土)~11月27日(日)
前期(群雄割拠の時代~本能寺の変):2011年10月1日(土)~10月26日(水)
後期(天下統一~戦国時代の終焉):2011年11月1日(火)~11月27日(日)
※前後期で展示替え

10月3・11・17・24・27~31/11月7・14・21日は休館となります。

主催 : 太田記念美術館 ・ (財)日本城郭協会

はじめに

天下統一をかけて争った戦国の武将たち。その波乱の人生は多くの人々を魅了し続けています。また彼らが各地に築いた城の数々は、幾多の攻防の舞台となり、戦国の名残を今に伝えます。近年、ドラマや映画、小説、あるいはコミックなどの影響で、若い世代の女性も含め、戦国武将や各地の名城への人気が高まっています。江戸や明治の人たちにとっても、幾多の英雄が活躍した戦国時代への憧れは強かったと見え、戦国武将の肖像や合戦、各地の名城を描いた浮世絵が数多く残されています。本展は、浮世絵に描かれた名城や戦国の武将たちに焦点を当てる展覧会です。

1.浮世絵でみる天下統一への道

歌川芳員「本朝名将鑑 武田太膳太夫信玄」

歌川芳員「本朝名将鑑 武田太膳太夫信玄」
(前期展示予定 10/1~10/26)

数多くの戦国大名が生き残りをかけて戦った戦国時代。浮世絵師たちは戦国大名の肖像や、合戦の様子を豊かな想像力で描きました。本展では展覧会を前後期に分け、浮世絵を見ながら戦国時代の流れを追う構成となっています。前期は武田信玄や上杉謙信らが活躍した群雄割拠の時代から、織田信長が本能寺の変で謀反によって倒れるまでを、後期は豊臣秀吉による天下統一から、大坂夏の陣で豊臣家が滅ぶまでをご紹介します。浮世絵師たちの描いた色鮮やかな戦国絵巻をお楽しみください。

写真サンプル

大蘇芳年「桶狭間合戦稲川義元朝臣陣歿之図」(3枚続) 
織田信長が今川義元を破った、桶狭間の戦いを描きます。
(前期展示予定 10/1~10/26)

大蘇芳年「京都四条夜討之図」

大蘇芳年「京都四条夜討之図」(3枚続)
本能寺の変での織田信長と明智軍を描いた作品。
(前期展示予定 10/1~10/26)

歌川貞秀「山崎大合戦之図」

歌川貞秀「山崎大合戦之図」(6枚続)
羽柴秀吉と明智光秀による山崎の戦いを題材としています。
(後期展示予定 11/1~11/27)

大蘇芳年「一魁随筆 真田左エ門尉幸村」

大蘇芳年「一魁随筆 真田左エ門尉幸村」
大坂の陣で家康の命を狙う真田幸村を描きます。
(後期展示予定 11/1~11/27)

大蘇芳年「太平記美濃霧中大合戦」

大蘇芳年「太平記美濃霧中大合戦」(3枚続)
天下分け目の戦い、関ヶ原での福島正則の活躍を描きます。
(後期展示予定 11/1~11/27)

2.城をめぐる死闘 -大迫力の攻城戦

秀吉による備中高松城攻めや、本能寺の変後の明智軍による二条城攻撃など、浮世絵師たちは城攻めをテーマとした作品を数多く手がけました。興味深いのは天守の表現です。戦国時代以前の城郭には天守は発達していませんでしたが、浮世絵師たちは江戸時代の城郭のイメージで立派な天守を描いています。ここでは武将たちの攻防の舞台となった、戦国時代を中心とする城攻めを描いた浮世絵を紹介します。
歌川貞秀「山崎大合戦之図」

歌川芳虎「水攻防戦之図」「赤松水攻之図」(6枚続)
秀吉による備中高松城の水攻めを描いた作品。
(前期展示予定 10/1~10/26)

歌川芳虎「武田勝頼膳城素肌攻の図」(3枚続) (前期展示予定 10/1~10/26)

歌川芳虎「武田勝頼膳城素肌攻の図」(3枚続) (前期展示予定 10/1~10/26)

歌川貞秀「大内合戦之図」

歌川貞秀「大内合戦之図」(3枚続)  (日本城郭協会提供)
室町時代に起きた大内氏の反乱、応永の乱に取材しています。
(後期展示予定 11/1~11/27)

3.北斎・広重 -風景がに描かれた名城の数々

北斎や広重などが描いた全国各地の名所絵には、しばしば城郭が描かれています。その中には現在でも天守が現存、あるいは復元されているものもあれば、石垣のみが残るものなど様々です。江戸城、小田原城、犬山城、姫路城など、江戸時代の風景に描かれた、往時の名城の姿をご紹介します。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 江戸日本橋」

葛飾北斎「冨嶽三十六景 江戸日本橋」
(前期展示予定 10/1~10/26)

歌川広重「東海道五拾三次之内 吉田 豊川橋」

歌川広重「東海道五拾三次之内 吉田 豊川橋」
(後期展示予定 11/1~11/27)

4.禁じられた戦国武将 -幕府の禁令と浮世絵師

歌川芳員「本朝名将鑑 武田太膳太夫信玄」

歌川芳幾「太平記英勇伝 岸田光成」石田三成の名前を「岸田光成」と変えています。
(後期展示予定 11/1~11/27)

豊臣秀吉の生涯を描いた読本『絵本太閤記』は寛政9年(1797)に出版されて大好評を博しますが、文化元年(1804)に発禁となります。太閤記関連の図を描いた歌麿などの浮世絵師は処罰を受け、天正期以来の武将などを題材とすることは禁じられてしまいます。幕末になると歌川国芳を中心とし、再び戦国時代を描いた浮世絵が数多く描かれるようになりますが、武将の名前を実名と変えるなど、規制を受けないよう工夫がなされていたのです。

<見どころの一点>
歌川貞秀「真柴久吉公播刕姫路城郭築之図」(3枚続)(日本城郭協会提供)(前期展示予定 10/1~10/26)

歌川貞秀「真柴久吉公播刕姫路城郭築之図」
3枚続の大画面に、巨大な天守が描かれています。本図が題材とするのは、世界遺産としても有名な姫路城。背景に広がる穏やかな海は播磨灘です。興味深いのは、本図が築城中の天守を描いていることでしょう。高く組まれた足場の上には、ところどころに普請に従事する人々が描かれ、その中に「真柴久吉(羽柴秀吉)」、「佐藤正清(加藤清正)」「畑切且元(片桐且元)」「浮島正則(福島正則)」といった武将たちが混じっています。名前が史実とは一部変えられているのは、先述した幕府による規制のためです。
姫路城の築城自体は南北朝時代にさかのぼりますが、天正8年(1580)に羽柴秀吉が居城とし、大規模な改修が行われたことで天守のある近世城郭へと生まれ変わりました。面白いのは、本図に描かれた天守が五層に描かれていることです。実際には、秀吉が建てた天守は三層であったと言われており、浮世絵師が江戸時代の天守のイメージで本図を描いていることが分かるのです。
入館料

リピーター割引あり (会期中2回目以降にご鑑賞の方は、半券と引換にて100円割引)

一般1000円
大高生700円
中学生以下無料
開館日カレンダー
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太田記念美術館収蔵品展

喜多川歌麿 「なくて七癖 子を愛癖」
企画展
2011年12月1日(木)~12月18日(日)

12月5・12日は休館となります。

※12月展示の図録は作成いたしません。

はじめに

都内でも数少ない浮世絵専門の美術館である太田記念美術館は、約1万2000点にものぼる浮世絵コレクションを所蔵していることで知られています。しかもそのコレクションは単に量を誇るだけでなく、江戸時代初期から幕末・明治に至るまで、浮世絵の歴史を代表するような高いクオリティを誇る優品を数多く含んでいることも注目に値します。本展覧会では、その膨大なコレクションの中から、歌麿、国芳、広重などの人気絵師の作品や、普段は展示されることの少ない珍しい作品など約80点を一堂に集め、浮世絵の魅力を紹介いたします。
歌川豊国「やつし吉野川」

歌川豊国「やつし吉野川」

喜多川歌麿 「なくて七癖 子を愛癖」"

喜多川歌麿「なくて七癖 子を愛癖」

歌川広重 「浪花名所図会 安立町難波屋のまつ」"

歌川広重 「浪花名所図会 安立町難波屋のまつ」

歌川国芳 「高祖御一代略図 佐州流刑角田波題目」"

歌川国芳 「高祖御一代略図 佐州流刑角田波題目」

入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
開館日カレンダー
カレンダー

鴻池コレクション 扇の美

葛飾北斎「縁台の三美人」2
企画展
2012年1月3日(火)~1月26日(木)

1月10・16・23日は休館となります。

※1月展示の図録は作成いたしません。

展覧会の概要

扇は、暑さをしのぐための単なる実用品としてだけではなく、日々の生活のアクセサリー、あるいは儀礼や芸能の場で用いる道具など、古くからさまざまな形で日本人に愛されてきました。そのような扇が、多くの絵師たちによって、さながら一枚のキャンバスかのごとく美しく彩られてきたというのも至極当然なことでしょう。扇は手の上で広げて鑑賞したり、折りたたんで持ち運んだりすることのできる、最も身近な美術品だったのです。
大阪の豪商・鴻池家から譲り受けた当館の扇絵のコレクションは、さまざまな流派の絵師たちの作品900点以上からなり、扇絵の歴史を語る上で欠かすことができない貴重なものとなっております。本展覧会では、その膨大なコレクションの中から、代表的な作品約90点と、それに関連する浮世絵を合わせて紹介いたします。扇という手の上に広がる小さな画面から溢れ出す、生き生きとした筆遣いをご鑑賞ください。

※展示協力 : 阿部富士子 (扇研究家・造形作家)
歌川国貞「合奏の男女」

歌川国貞「合奏の男女」

酒井抱一「秋草」

酒井抱一「秋草」

展覧会のみどころ1

浮世絵、琳派、文人画。さまざまな流派の絵師たちの作品を一挙公開。
鴻池コレクションの扇には浮世絵はもちろん、琳派、文人画、円山・四条派など、近世に活躍したさまざまな流派の絵師たちの作品が多数含まれています。本展ではそれらの中から選りすぐった名品を一挙に公開します。
春木南溟「蜀桟道」

春木南溟「蜀桟道」

渡辺南岳「韓信股潜」

渡辺南岳「韓信股潜」

展覧会のみどころ2

扇の原形を保つ貴重なコレクション
扇は破損しやすいため、現存しているものの多くは骨から取り外され、掛軸や画帖といった平面状のものに貼り付けられてしまっています。しかしながら、鴻池コレクションの扇は、制作当時の骨がついたままの状態で保存されているため、絵師たちが扇の凹凸の画面をいかに計算して絵を描いていたかを鑑賞できる貴重な資料となっています。
喜多武清「兎の餅つき」

喜多武清「兎の餅つき」

英一珪「七福影向之図跡」

英一珪「七福影向之図跡」

展覧会のみどころ3

扇に隠された造形的な美しさに迫る
扇の魅力は描かれている絵の美しさだけではありません。骨や要(かなめ)といった扇を構成するさまざまな部位にも職人たちの技術の粋が込められています。今までほとんど注目されることのなかった扇の制作技術やその造形的な魅力について、分かりやすく解説します。
池田孤邨「紅葉」

池田孤邨「紅葉」

森狙仙「猿」

森狙仙「猿」

<見どころの一点>
葛飾北斎「縁台の三美人」

葛飾北斎「縁台の三美人」1
葛飾北斎「縁台の三美人」2
赤い毛氈の敷かれた縁台に座って涼をとっている三人の女性たち。花で飾られた行灯を眺めています。瓜実顔にほっそりとしたプロポーションという北斎らしい美人画ですが、作品を眺める角度によって女性たちの見え方が変化するなど、扇特有の凹凸がある画面であることを巧みに計算した表現がなされています。

展示室風景

展示室風景1

展示室風景1

展示室風景2

展示室風景2

入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
イベント
「江戸の絵師による扇の表現 ―光琳から北斎まで―」
講師阿部富士子(扇研究家・造形作家)
日程2012年1月14日(土)
時間14:30~16:00
会場太田記念美術館 視聴覚室(B1)
定員35名(先着順)
受講料無料(当日入館券が必要です。)
※当日13:00より1階受付にて整理券を配布致します。
開館日カレンダー
カレンダー

大江戸スター名鑑

勝川春好「江戸三幅対」
企画展
2012年2月1日(水)~2月26日(日)

2月6・13・20日は休館となります。

※2月展示の図録は作成いたしません。

はじめに

テレビや映画で活躍する俳優やタレント、あるいはスポーツ選手などの有名人の話題は、現代の人にとって大きな関心のひとつです。江戸時代の人たちにとってもそれは同じであったようで、人々は舞台で見得を切る歌舞伎役者に喝采をおくり、土俵上でぶつかり合う力士たちに興奮し、あるいは吉原を彩る高位の遊女にあこがれの念を抱きました。そうした江戸のスターたちの姿は、しばしば浮世絵に写し取られています。実際にスターを目の当たりにできない人たちも、浮世絵を通じて、スターたちの存在をより身近に感じたことでしょう。
本展は、江戸の町を賑わした、様々な有名人たちに焦点をあてる展覧会です。市川団十郎、尾上菊五郎といった歌舞伎役者たちはもちろん、谷風などの伝説の力士たち、吉原の美しい花魁、あるいは元禄赤穂事件で知られる大石内蔵助や、ベストセラー小説『偐紫田舎源氏』の主人公、足利光氏のような架空の登場人物まで、様々なタイプの人気者たちをご紹介いたします。

1.江戸の大スター 歌舞伎役者

江戸市中の人々の人気を最も集めたのは、何といっても歌舞伎役者でしょう。市川団十郎や尾上菊五郎、坂東三津五郎など、何代にも渡って名優を輩出した大名跡がひしめき合い、大衆の羨望の的であった歌舞伎役者たち。江戸時代にはそんな彼らを描いた浮世絵が数多く出版されました。ここでは伝説的な名優たちのエピソードとともに、勝川派や歌川派などの絵師が描いた浮世絵を紹介します。
三代歌川豊国「初代河原崎権十郎のおぼう吉三 三代目岩井粂三郎のおぜう吉三 四代目市川小団次の和尚吉三」

名作の初演キャスト
三代歌川豊国「初代河原崎権十郎のおぼう吉三 三代目岩井粂三郎のおぜう吉三 四代目市川小団次の和尚吉三」
「三人吉三廓初買」初演の様子。安政7年(1860)正月の上演以来、今でも上演され続けています。(現行では名題は「三人吉三巴白巴狼」)

三代歌川豊国「踊形容江戸絵栄」

三代歌川豊国「踊形容江戸絵栄」幕末の劇場内部。花道に「暫」の扮装で登場するのは初代河原崎権十郎(のちの九代目市川団十郎)。

豊原国周「歌舞伎座中満久 皿屋舗化粧姿鏡」

ひいおじいちゃんも人気者
豊原国周「歌舞伎座中満久 皿屋舗化粧姿鏡」 お菊の霊を演じるのは、五代目尾上菊五郎。今の七代目尾上菊五郎の曽祖父にあたる明治の名優です。画面下に描かれるのは、そのライバルで劇聖ともうたわれる、九代目市川団十郎。

歌川国貞「当世俳優贔屓競 髪ゆい」

歌川国貞「当世俳優贔屓競 髪ゆい」鏡形のコマ絵の中に描かれるのは五代目瀬川菊之丞。手前に描かれた女性の贔屓の役者という設定。

2.力士や花魁 -市中の人気者たち

人気があったのは歌舞伎役者だけではありません。無類の強さを誇った伝説的な横綱、谷風に代表される力士、庶民には高嶺の花であった吉原の高級遊女、あるいは辻講釈で人気を得た深井志道軒など、さまざまな分野の有名人たちの姿が浮世絵に描かれています。ここでは、その時どきに市中の話題をさらった人気者たちの姿を紹介いたします。

三大スター 夢の競演
勝川春好「江戸三幅対」
横綱の谷風、初代市川鰕蔵、扇屋の遊女・花扇という、天明~寛政期(1781~1801)の3人のスターを描いた作品です。谷風と花扇が飲み比べをし、鰕蔵が行司役をつとめるという粋な趣向。谷風は生涯の勝率9割5分という驚異的な強さを誇りました。

菊川英山「風流吉原八景 寿かゝきの晩鐘」

菊川英山「風流吉原八景 寿かゝきの晩鐘」
吉原の人気遊女、松葉屋の粧(よそおい)

事件や物語の登場人物

江戸の人気者の中には、当時実際に起きた事件に関わった人物もいます。元禄赤穂事件を起こした大石内蔵助と赤穂義士たちは絶大な人気を得て、歌舞伎などの芝居にも取り入れられています。代表作『仮名手本忠臣蔵』は必ず大入りとなることから歌舞伎界の独参湯(どくじんとう、起死回生の妙薬のこと)とも言われ、初演から250年以上を経た現代でも人気の演目です。ここでは他に、『偐紫田舎源氏』の主人公、足利光氏や、『南総里見八犬伝』の八犬士など、大ベストセラーに登場する架空の人気者たちもあわせて紹介します。
歌川芳虎「忠臣雪夜志」

歌川芳虎「忠臣雪夜志」
大石内蔵助と赤穂義士が主君の仇を討った元禄赤穂事件。本図は吉良邸への討入りを描いたもの。

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 東都浅草本願寺」

大ヒット小説→芝居→錦絵
豊原国周「里見八犬士之内 犬山道節」
曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」は大ベストセラーとなり、何度も舞台化されました。本図は五代目坂東彦三郎が扮した犬山道節。

<見どころの一点>
東洲斎写楽「初代市川鰕蔵の竹村定之進」

東洲斎写楽「初代市川鰕蔵の竹村定之進」

今も昔も「えび様」は大人気
一度見たら忘れない、印象的な風貌。東洲斎写楽による大首絵の有名な1点です。描かれている役者は、初代市川鰕蔵(えびぞう)。前名を五代目市川団十郎と言い、昨今テレビなどでも話題の、十一代目市川海老蔵のご先祖さまに当たる人物です。市川家の芸を良く伝え、名人として絶大な人気を誇りました。一方で洒脱な性格の持ち主であったと伝えられ、狂歌を楽しみ、大田南畝ら当時一流の文化人とも交流があったとされています。本図は寛政6年(1794)5月に河原崎座で上演された「恋女房染分手綱」で竹村定之進を演じる初代市川鰕蔵を描きます。

入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
開館日カレンダー
カレンダー

『さくらさくら ~春の訪れ』

溪斎英泉「十二ヶ月の内 三月花見」
企画展
2012年3月1日(木)~3月25日(日)

3月5・12・19日は休館となります。

※ 3月展示の図録は作成いたしません。

展覧会の概要

歌川広重「名所江戸百景 隅田川水神の森 真崎」

歌川広重「名所江戸百景 隅田川水神の森 真崎」

春の訪れを告げる桜の花は、現代の日本人にとっても最も馴染み深い花と言えます。私たちはその風情ある美しさにうつろう四季を感じ、花見は季節のイベントとして欠かせないものとなっています。
江戸っ子もまた、こうした桜の花とのふれあいを楽しんでいました。江戸時代は桜がさかんに植樹され、江戸の市中に数々の桜の名所が出現し、庶民が身近に桜の花を楽しんだ時代だったのです。浮世絵のなかにも、咲き誇る満開の桜や、散りゆく花びら、夕闇に浮かびあがる花の影など、春の情景をいろどる桜が様々に描き出されています。また、花の下を散策し、お弁当に舌鼓をうちながら花見に興じる庶民の姿も数多く登場します。
本展では桜を描いた浮世絵を紹介いたします。今も変わらない美しさで絵の中に咲く桜の花を楽しみながら、一足早い春景色をご堪能ください。

江戸の桜の名所

江戸時代、八代将軍徳川吉宗が町場の整備の一環として桜の植樹を行い、庶民の楽しみの場所としました。これにより現在でも人気の高い、寛永寺(現上野恩賜公園)や隅田川堤、飛鳥山をはじめ、御殿山(現品川)など江戸屈指の桜の名所が誕生したのです。絵師たちは、これらの名所に桜の花が美しく咲き誇る情緒ある風景を描き出しています。うつろいゆく季節を愛で楽しんだ、江戸の人々の豊かな感受性に触れてみてください。
溪斎英泉「江戸八景 上野の晩鐘」

溪斎英泉「江戸八景 上野の晩鐘」

歌川広重「名所江戸百景 吾妻橋金龍山遠望」

歌川広重「名所江戸百景 吾妻橋金龍山遠望」

江戸っ子花に酔う

溪斎英泉「十二ヶ月の内 三月花見」

溪斎英泉「十二ヶ月の内 三月花見」
花見の際には花の下では詩歌を詠み、それを書いた短冊を木に付けることも行われた。

お花見は芝居見物や寺社参詣とならぶ重要なレジャーの一つでした。女性は花見のために晴れ着を新しくあつらえ、前日からお弁当の支度に追われました。また、桜の花の下で詩歌を詠むことも行われ、この歌のやりとりがときには男女の出会いを生むこともあったようです。絵師たちは桜咲く美しい景色だけでなく、こうした桜の下で非日常の空間に酔いしれる庶民の姿をもいきいきと描き出しました。

溪斎英泉「四季之内 春 花見帰り隅田の流し」

溪斎英泉「四季之内 春 花見帰り隅田の流し」

歌川広重「江戸名所四季の眺 御殿山花見之図」

歌川広重「江戸名所四季の眺 御殿山花見之図」

二代歌川国貞「花盛春長閑」吉原も桜の名所の一つ。遊郭の情景に夜桜がはなやかさを添えている。

二代歌川国貞「花盛春長閑」 吉原も桜の名所の一つ。遊郭の情景に夜桜がはなやかさを添えている。

<見どころの一点>
歌川広重「京都名所之内 あらし山満花」

歌川広重「京都名所之内 あらし山満花」

歌川広重「京都名所之内 あらし山満花」

桜の花びらが舞い散る中、川の水面をするすると流れていく一艘の筏(いかだ)。本図は広重が金閣寺や祇園社(現在の八坂神社)など、京都を代表する名所を描いた全10枚の揃物のうちの一図です。嵐山は江戸時代にも名高かった桜の名所。道を行く柴を背負った農夫の姿からも、ここが静かな深山であることがわかります。広重は桜咲く嵐山ののどかな風景を、大堰(おおい)川を右斜め上から左下へといたる大胆な構図でとらえることで、動感に富み迫力に満ちた画面へとまとめています。また、薄いピンク色の桜と、青と白で表現された大堰川との対比も目に鮮やかです。春の情景をみずみずしく描き出した本図は、風景画の名手、広重による名品の一つです。

入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
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