歌麿・英泉・北斎 -礫川浮世絵美術館名品展

企画展
2015年10月2日(金)~11月23日(月・祝)
前期:2015年10月2日(金)~10月25日(日)
後期:2015年10月30日(金)~11月23日(月・祝)
※前後期で展示替え

10月5・13・19・26~29日/11月2・9・16日は休館となります。

※展覧会の図録は作成いたしません。

はじめに―コレクターの情熱に触れる

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」(前期展示)

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」(前期展示)

礫川(こいしかわ)浮世絵美術館は、医学博士であり浮世絵研究家の故・松井英男氏(1930~2013)によって1998年に設立された浮世絵専門の美術館です。松井氏は日本が世界に誇る文化遺産である浮世絵が数多く海外へ流出している事態を憂え、浮世絵の真価を国内外に伝えるべく作品を収集。40年以上の歳月をかけて形成された松井コレクションに収められた作品は、約2400点にも及びます。なかには歌麿や北斎など人気絵師の代表作品をはじめ、初期の浮世絵版画や初摺など貴重な作品が含まれており、国内でも屈指の浮世絵コレクションとして知られてきました。しかし礫川浮世絵美術館は2014年3月をもって閉館しました。同館の所蔵品として優品の数々を公開する機会としては、本展が最後となります。今回は厳選した名品をご覧いただくとともに、浮世絵研究に偉大な足跡を残した松井氏のご研究にも触れます。松井氏が愛した珠玉の浮世絵をご紹介する貴重な機会を、どうぞお見逃しなく。

喜多川歌麿「当時三美人」(後期展示)

喜多川歌麿「当時三美人」(後期展示)

溪斎英泉「美艶仙女香 はつ雪や」(前期展示)

溪斎英泉「美艶仙女香 はつ雪や」(前期展示)

巨匠たちの名品が勢揃い

表情豊かな女性たちをとらえる歌麿、英泉の美人画。雄大な自然を切り取る北斎の風景画、ユーモラスな国芳の戯画――。松井コレクションには誰もがその名を知る巨匠たちの代表作品が含まれています。しかしそれだけではありません。同コレクションには浮世絵版画の黎明期をリードした菱川師宣や奥村政信から、月岡芳年など幕末明治に活躍した絵師まで、その優品が収めらています。17世紀から19世紀にいたる名品を介して、浮世絵の歴史を通覧できるのも本展の見どころのひとつです。
鈴木春信「丑の時参り」(前期展示)

鈴木春信「丑の時参り」(前期展示)

歌川国芳「人をばかにした人だ」(後期展示)

歌川国芳「人をばかにした人だ」(後期展示)

松井コレクションのこだわり(1)―青色の歴史を紐解く

医学部の大学教授を退官後、浮世絵研究に注力された経歴を持つ松井氏。同氏は浮世絵研究にも科学的な視点を持ち込み、コレクション作品を中心に絵具の成分分析、特に露草や藍(本藍)、ベロ(ベルリンブルー、ベロ藍とも)といった青色絵具について詳細な分析を行いました。近年、浮世絵に見られるベロの美しさが注目を集めるようになっていますが、このベロにいたる青色絵具使用の変遷の解明において、松井氏らの科学的な調査が大きく貢献しています。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期展示

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期展示

歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」(後期展示)

歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」(後期展示)

松井コレクションのこだわり(2)―初摺(しょずり)を見よ!

江戸市民が気軽に購入できた浮世絵は、人気のある作品ほど何度も摺られました。そのなかでも最も早い摺りを初摺と言います。初摺は絵師の立ち会いのもと行われたため、絵師の作品イメージが最もよく反映されています。よって、絵師たちが目指した本来の美しさを知るには、初摺を見ることが大変重要です。その意義深さを重んじた松井氏のコレクションには多くの初摺、あるいはそれに近い作品が収められました。本展では初摺作品もご紹介し、江戸の人々も目にした名品の輝きをご覧いただきます。

<見どころの一点>
勝川春章「ふみ月 たなばた 草市」(前期) 明和(1764~1772)末頃

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦」(前期展示)

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦」(前期展示)

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦(校合摺)」(前期展示)

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦(校合摺)」(前期展示)

澄み渡る冬空の下、雪見を楽しむ人々を描いた「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦」。雪の白と空の青との対比が美しい一枚です。この鮮やかな青色は、本図が制作された1831年(天保3)頃に浮世絵制作に導入された青色絵具、ベロによるもの。ベロは水溶性で水の配合によって濃淡が付けやすいことから、微妙に移ろう空や水辺の青色の表現を可能としました。北斎の画業を代表する「冨嶽三十六景」は青色が大変効果的に用いられたシリーズですが、その成功にはベロの存在が欠かせなかったのです。また本図の校合摺(輪郭線を彫った主版(おもはん)を摺ったもの)もあわせてご紹介します。じつは「冨嶽三十六景」シリーズの早い段階の作品は輪郭線も青色です。かつては輪郭線もベロと推測されていましたが、松井氏らの成分分析によって藍が用いられていることが判明。世界的傑作は、藍とベロ、新旧の青色絵具の調和によって生み出されていたことが知られるようになったのです。さらに本図は、文京区小石川に設立された美術館の名称の由来となった作品でもあり、まさに松井コレクションを象徴する名品のひとつと言えるでしょう。
入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
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