2017年度の展覧会
江戸の女装と男装
男女の境界を行き来する江戸文化
女装や男装の文化は、洋の東西を問わず、古くから見られるものです。日本では、女装といえば『古事記』に見える、ヤマトタケルが女装して熊襲を退治した話が思い出されますし、また中世の稚児による女装、芸能に見られる女装など、古くから異性装の風俗がありました。 江戸時代にも祭礼で芸者などの女性が男装して出し物を演じたり、男性役者が女装して女性を専門に演じる歌舞伎の女形など、男装や女装の風俗が見られます。また、歌舞伎に登場する女装の盗賊、弁天小僧をはじめ、物語で活躍する異性装の登場人物も広く親しまれました。浮世絵では歴史や物語に登場する人物の男女を入替えて、当世風の人物に置き換えるやつし絵や見立絵も多く描かれています。 男女が入れ替わる趣向という意味では、近年の映画「君の名は。」の大ヒットも思い起こされるところですが、既に江戸時代には、異性装や男女を入れ替えるという発想が、庶民にとって身近なものであったことがうかがえます。本展では、描かれた浮世絵を通して、男女の境界を自由に行き来する江戸時代の風俗や文化の諸相に迫ります。
祭礼で男装する女性たち
江戸時代の遊郭である吉原では、八月になると俄という祭りが催され、メインストリートである仲之町の大通りでは男装した芸者たちによる獅子舞や俄狂言などが演じられました。芸者たちは鳶の扮装をしたり、助六などの有名なお芝居を演じて祭りを盛り上げたようです。山王祭や神田祭など、各地の祭礼でも附祭と呼ばれる同様の風俗が見られます。
物語にみる女装・男装
日本では、『古事記』に見られるヤマトタケルが女装して熊襲を退治した話や、牛若丸が五條橋で女装の稚児として弁慶と戦うという話など、異性装の話は古くから見られます。また江戸時代には、歌舞伎に登場する女装の盗賊、弁天小僧や、小説『南総里見八犬伝』に登場する女装の剣士・犬坂毛野などが人気を呼びました。ここでは、物語に登場する異性装の人物たちを紹介します。
女装のスペシャリスト―歌舞伎の女形
歌舞伎の始まりである出雲の阿国の一座では、阿国などの女性が男装をし、男性が女装をしていたとされます。寛永6年(1629)に女性が歌舞伎に出演することが禁じられて以降、女形(方)が女性を専門的に演じるようになり、女形の名優が数多く登場しました。女形は日常生活でも女性のように暮らすことを推奨されたと言い、いわば女装のスペシャリストとも言えるでしょう。
歌舞伎や浮世絵にみる男女入替え
歌舞伎では「女助六」や「女清玄」のように、通常では立役(男性役)が演じる登場人物を、男女の設定を入替えて女形が演じる趣向があります。また浮世絵では、歴史や物語の登場人物などを、時に男女を入替えて当世風の人物に置き換える「やつし絵」や「見立絵」なども盛んに描かれました。ここでは江戸の庶民たちが楽しんだ、洒落た男女入替えの趣向を紹介します。
見どころの作品
月岡芳年「風俗三十二相 にあいさう 弘化年間廓の芸者風俗」
「風俗三十二相」は、月岡芳年が晩年に手掛けた、32枚からなる美人画の揃物です。寒そう、痛そうなどといった、さまざまな年齢や職業の女性たちの心情を題材にした内容で、本図には「にあいさう」とあります。何が「似合いそう」なのでしょうか。 本図に描かれているのは、画中の説明によると弘化年間(1844~48)の廓の芸者。廓、つまり吉原で八月に行われた祭りである「俄(にわか)」に参加した女芸者が、手古舞と呼ばれる鳶のような扮装をしています。女性は男髷を結った男装で描かれており、手には「俄」と書かれた扇を持っています。描かれた女芸者の男装姿がとても凛々しく、様になっていることから、「似合いそう」とあるのでしょう。
イベント
学芸員によるスライドトーク
展覧会の見どころを担当学芸員が解説します。
日程 | 2018年3月6(火)、15日(木)、21日(水・祝) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
明治維新150年 幕末・明治 ―激動する浮世絵
後期 2月2日(金)~25日(日)
今から約150年前、長らく続いた江戸幕府が崩壊し、新たに明治政府が樹立するという、時代の大きなうねりが起こりました。幕末・明治の浮世絵師たちは、時には、戊辰戦争や文明開化といった社会の変化を描き、時には、西洋文明の影響を受け入れながら、新たな絵画表現にチャレンジしました。
来年、平成30年(2018)は、明治維新からちょうど150年にあたります。それを記念し、本展覧会では、幕末から明治にかけて制作された浮世絵約150点(前後期で展示替えあり)を紹介します。幕末・明治という時代にあわせて激動していく浮世絵をお楽しみください。
展示の見所① 2018年は明治維新から150年。激動の時代を見つめ直す
慶応4年(1868)、戊辰戦争が勃発し、江戸幕府が瓦解。江戸の町は東京と名前を変え、急速な近代化が進みました。幕末の動乱を伝える風刺画や、近代化した東京の街並みを描いた開化絵をとおして、激動の時代を見つめ直します。
展示の見所② 浮世絵師たちが描いた西郷隆盛
展示の見所③ 月岡芳年、小林清親。注目される幕末・明治の浮世絵師たちを紹介
見どころの作品
鈴木年基「文武高名伝 旧陸軍大将正三位西郷隆盛」
月岡芳年「西郷隆盛霊幽冥奉書」
一方、芳年の描いた西郷は、眼の焦点が定まらず、唇も紫色になっています。制作は明治11年(1878)7月。すでに西南戦争に敗れて自刃した後で、幽霊となって建白書を届けようとしている姿として描かれています。西郷の不気味な姿は、国の将来に対する不安を象徴しているかのようです。
イベント
学芸員によるスライドトーク
展覧会の見どころを担当学芸員が解説します。
日程 | 2018年1月8(月・祝)、19日(金)、23日(火)、 2018年2月6日(火)、12日(月・祝)、23日(金) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
若手研究者講演会
日程 |
2018年2月3日(土)「明治の浮世絵にみる《江戸》-楊洲周延を中心に」村瀬可奈氏(町田市立国際版画美術館) 2018年2月17日(土)「浮世絵に描かれた母子の姿 -喜多川歌麿と菊川英山を中心に」洲脇朝佳氏(國學院大學大学院) 2018年2月24日(土)「肉筆浮世絵の技法と復元」向井大祐氏(東京藝術大学) |
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時間 | 14:00~15:30 |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
没後150年記念 菊川英山
後期 12月1日(金)~20日(水)
知られざる美人画の名手
菊川英山(1787~1867)という浮世絵師の名を知っている人はどれほどいるでしょうか。巨匠、喜多川歌麿の亡き後、多くの絵師が歌麿風の作品を手がけるなか、可憐でたおやかな女性像を確立して新時代の美人画をリードしたのが菊川英山でした。その作品には上品な武家の姫君から、愛らしい町娘、ゴージャスな遊女まで、さまざまな女性たちが時に優雅に、時にポップにカラフルに描かれます。こうした英山の美人画は弟子の溪斎英泉のみならず、近年人気の歌川国貞や歌川国芳など、以後の絵師たちに大きな影響を与えました。幕末の美人画は、英山から始まったと言っても過言ではないでしょう。
今年、菊川英山の没後150年を迎えることを記念し、本展覧会では、初公開作品や代表作を含む版画・肉筆画の優品約200点を通して、菊川英山の画業に再び光をあてます。東京で開催される回顧展としては32年ぶりです。新しい時代のなかでしなやかに花開いた英山美人の輝きをご堪能ください。
江戸の新しい女性像
菊川英山が浮世絵界にデビューしたのは10代後半の頃。喜多川歌麿風のはつらつとした美人画を描き若くして人気絵師となります。歌麿没後、20代半ばとなった英山は新しい美人画を模索し始めます。そして行き着いたのが黒目がちの瞳に、六頭身でほっそりとした体つきの愛らしい女性像でした。浮世離れしたスラリとした長身の歌麿美人がスーパーモデルなら、可憐で小柄な英山美人は読者モデルのような親しみやすさも備えています。こうした新しい女性美が江戸市民に広く愛されたのです。
オシャレの手本は英山美人
茶屋の看板娘や母子、芸者や遊女など江戸の町を彩った女性たちが登場する英山作品。その魅力のひとつは女性たちがとてもオシャレだということ。当時、髪型や化粧、着こなしにいたるまで身分や年齢による制約があり、そのなかでいかに最新ファッションを楽しむかは、江戸女性の大きな関心事でした。人気役者が発信源の旬のモチーフやブームとなった笹色紅など、ルールのなかで最先端の流行を取り入れた英山美人は、現代のファッション雑誌さながらに女性たちの心を躍らせたことでしょう。
美人画空白の時代に光をあてる
浮世絵美人画を語る際、英山が活躍した文化年間(1804~18)という時代は、これまであまり注目されてきませんでした。しかし近年、門弟の溪斎英泉や歌川国芳、歌川国貞の展覧会が開催され、幕末に活躍した絵師たちの人気が高まりつつあります。本展では作品を時代順に展示することで、喜多川歌麿と幕末の絵師たちをつないだ英山の美人画の意義を見直します。
美麗な日本浮世絵博物館コレクション、初公開作品ほか、名品の数々
<見どころの一点>
「六玉内 伊手玉川」日本浮世絵博物館蔵(前期)
日本浮世絵博物館が所蔵する本図は、保存状態が良く退色しやすい淡い青色がよく残った逸品です。床几に座り物思いにふける様子の水茶屋の女性。当時、寺社など多くの人でにぎわう場所に設けられた水茶屋では、見目麗しい女性たちが働くことが多くありました。青紫の縞柄の着物に花模様の前掛、グレーの雲文の帯という装いは一見ひかえめですが、前掛の紐などの朱色が差し色としてとても効いています。また、楚々とした美しさに加えて、柔らかな指先やはだけた胸元からは匂い立つような色香が漂います。本図は、理想とされた女性像をひとつに凝縮した一点といえるでしょう。
展覧会カタログ
本展カタログ「没後150年記念 菊川英山」を2,500円(税込)にて販売します。入館料
リピーター割引 本展の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。
※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
一般 | 1000円 |
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大高生 ※学生証をご提示ください。 | 700円 |
中学生以下 ※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 | 無料 |
開館日カレンダー
休館日
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2017年11月特別展
SUN MON TUE WED THU FRI SAT 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 -
2017年12月特別展
SUN MON TUE WED THU FRI SAT 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
葛飾北斎 冨嶽三十六景 奇想のカラクリ
北斎の「冨嶽三十六景」全46点を一挙公開
「冨嶽三十六景」は、富士山を日本全国のさまざまな場所から描いたシリーズで、天保2年(1831)頃に制作されました。題名に「三十六」とありますが、売れ行きがあまりに好評だったため、10点が追加され、全部で46点となっています。太田記念美術館が所蔵する「冨嶽三十六景」全46点が一挙に公開されるのは2010年以来7年ぶり。北斎の最高傑作を、ぜひたっぷりお楽しみください。
「冨嶽三十六景」の奇抜なアイデアを読み解く
「凱風快晴」や「神奈川沖浪裏」を筆頭に、「冨嶽三十六景」にはアッと驚くようなアイデアがふんだんに盛り込まれています。浮世絵師として絶え間なく研鑽を続けた北斎が、70歳を過ぎてたどりついた境地と言えるでしょう。本展では、「冨嶽三十六景」に隠された北斎の奇抜なアイデアを読み解いていきます。
北斎の娘・応為の「吉原格子先之図」を特別公開
※直木賞作家・朝井まかて氏の時代小説が、『眩(くらら)~北斎の娘~』として、NHK総合でドラマ化。主演は宮崎あおい、脚本は大森美香。9/18(月・祝)放送予定。
<見どころの一点>
葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」
富士山の山頂は晴れ渡っていますが、裾野は真っ黒な雲に覆われています。右下の斜めに走る線は雷を図様化したもの。富士山の下は白雨、すなわち、激しい夕立が降っていることを簡潔に表現しています。晴れと雨というまったく異なる天候を、一枚の画面の中に無理なく収めた、北斎らしい奇抜なアイデアが光る作品です。
イベント
学芸員によるスライドトーク
展覧会の見どころを担当学芸員が解説します。
日程 | 2017年10月3(火)、13日(金) |
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時間 | 11:00~ / 14:00~(各回40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
北斎を巡る 入館料相互割引プラン
本展チケットをすみだ北斎美術館の下記展覧会でご提示いただくと、団体料金でご覧いただけます。また、上記展覧会のチケットを当館でご提示いただくと、「葛飾北斎 冨嶽三十六景 奇想のカラクリ」展を100円割引でご覧いただけます。
※1枚につき1名様、1回限り有効、他の割引との併用はできません。
すみだ北斎美術館
「大ダルマ制作200年記念 パフォーマー☆北斎~江戸と名古屋を駆ける~」
2017年9月9日(土) ~ 2017年10月22日(日)
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
月岡芳年 月百姿
最晩年の代表作、「月百姿」全100点を一挙に公開
「月岡芳年 妖怪百物語」展(2017年7月29日~8月27日)に引き続き、幕末・明治の浮世絵師・月岡芳年の魅力を、さらに一歩掘り下げてご紹介いたします。今回展示するのは、芳年の最晩年の傑作である「月百姿」。「月百姿」はその題名の通り、全部で100点からなりますが、全点を一挙にご覧いただける機会はあまり多くありません。最後の浮世絵師とも称される芳年がたどり着いた境地を、まとめてご覧いただけるまたとない機会です。
「月百姿」の世界を4つの切り口で鑑賞
「月百姿」は、月にちなんだ物語を題材としていますが、平安時代や戦国時代の武将たちや絶世の美女たち、あるいは幽霊や妖怪などの不可思議な存在まで、さまざまなテーマが登場します。そこで、本展では、①美しき女たち、②妖怪・幽霊・神仏、③勇ましき男たち、④風雅・郷愁・悲哀という独自の切り口を設けることで、「月百姿」の世界を分かりやすくご紹介いたします。月の綺麗な秋の季節、月にまつわるさまざまな物語をご堪能ください。
100年以上前とは思えない! 斬新な構図・華麗な色彩
「月百姿」は明治18~25年(1885~92)、すなわち、今から約130年以上前に制作されました。しかしながら、大胆な視点から切り取った迫力ある構図や、月夜の静けさがしみわたるような静謐感、さらには粋を極めた彫りや摺りの美しさなど、現在の私たちでも「カッコいい!」「キレイ!」と口にしたくなるような新鮮な魅力にあふれています。芳年の「月百姿」の持つ“新しさ”にぜひご注目ください。
<見どころの一点>
「つきの百姿 大物海上月 弁慶」
源義経たちが大物浦から船出をした際、にわかに暴風雨となり、壇の浦に沈んだ平家の怨霊たちが行く手をはばみました。しかし、弁慶は経文を唱えることで、見事、怨霊を退散させます。平家の怨霊の姿ははっきりと描かれていませんが、画面の多くを占める漆黒の海と、弁慶に襲いかかる不気味な波の動きで、見る人の不安をかきたてます。緻密に計算された、芳年ならではの迫力ある作品です。
芳年を巡る 入館料相互割引プラン
下記展覧会のチケットを当館でご提示いただくと、「月岡芳年 月百姿」展を100円割引でご覧いただけます。
※1枚につき1名様、1回限り有効、他の割引との併用はできません。
横浜市歴史博物館
丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史×妖×芳年
2017年7月29日(土)~8月27日(日)
入館料
リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。
※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
一般 | 1000円 |
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大高生 ※学生証をご提示ください。 | 700円 |
中学生以下 ※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 | 無料 |
開館日カレンダー
休館日
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2017年9月特別展
SUN MON TUE WED THU FRI SAT 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
月岡芳年 妖怪百物語
はじめに
月岡芳年(1839~92)は幕末から明治にかけての浮世絵師です。歌川国芳の門下であり、明治時代には最も人気のある浮世絵師の一人として第一線で活躍し続けました。芳年は武者絵、歴史画、美人画など幅広いジャンルの作品を手がけましたが、生涯に渡って力を注いだテーマとして、歴史や伝説、小説、芝居などの怪奇的な物語に取材した妖怪画があります。芳年自身にも、たびたび幽霊を見たという逸話が残り、また怖い話が上手で百物語を語ることもあったと伝わります。芳年が手がけた数多くの作品の中でも、画業の初期に描いた26図からなる揃物「和漢百物語」と、最晩年に手がけた36図からなる揃物「新形三十六怪撰」という二つの作品は、ともに多数の妖怪たちが登場する怪奇画集の傑作として知られています。本展では、「和漢百物語」と「新形三十六怪撰」をそれぞれ全点公開するとともに、初期から晩年までの作品をあわせて約100点を出品し、芳年が描く妖怪画の世界を紹介いたします。9月1日より始まる特別展「月岡芳年 月百姿」と合わせ、2ヵ月続きで月岡芳年の魅力をお楽しみください。
月岡芳年が描く妖怪画約100点を大公開!
月岡芳年は画業の初期から怪奇的な画題を好み、妖怪たちを描き続けました。師匠の歌川国芳が妖怪画を得意としていたことから、その影響がまず考えられるでしょう。一方で芳年自身も妖怪を身近に感じていた人物のようで、たびたび幽霊を見たという話が伝えられており、また怖い話が上手く、養女に百物語を語って聞かせたという逸話も残っています。恐ろしく、また時にユーモラスな、芳年が描く魅力あふれる妖怪たちを紹介いたします。
初期の妖怪画シリーズ「和漢百物語」を全点公開
「和漢百物語」は慶応元年(1865)、芳年が数え27歳の時に出版されました。芳年による妖怪を題材とした最初の揃物で、全26図からなります。題名の「百物語」とは、数人で集まって怪談を語る会のことで、転じて怪談を集めた書物のタイトルにも用いられるようになりました。本作は和漢、すなわち日本と中国の怪談に幅広く取材しており、新進の浮世絵師であった若き日の芳年による、力の入った妖怪画集です。
「新形三十六怪撰」は明治22~25年(1889~92)にかけて出版された、妖怪を題材とした揃物。全36図からなります。出版開始時に芳年は数え51歳であり、幾つかの図は、明治25年に芳年が没した後に刊行されました。まさに最晩年の作ですが、芳年が長年手がけてきた妖怪画の集大成とも言える傑作です。なお題名の「新形」には当時流行の言葉であった「神経」、あるいは「真景」といった言葉がかかっていると考えられています。
<見どころの一点>
「新形三十六怪撰 源頼光土蜘蛛ヲ切ル図」(太田記念美術館蔵)
源頼光の土蜘蛛退治を題材にした一図。『平家物語』『太平記』の「剣の巻」に伝わるエピソードです。平安時代の武士である源頼光が病に侵され、長い間床に伏せていたある夜、一人の僧がどこからともなく現れ、縄で頼光を絡め取ろうとしました。驚いた頼光はとっさに枕元に置いてあった名刀、膝丸で切りつけます。別の部屋で宿直をしていた頼光配下の四天王たちも駆けつけ、血の後を追っていくと巨大な土蜘蛛に遭遇し、見事これを退治したという話。頼光の名刀「膝丸」は、以降「蜘蛛切」と呼ばれるようになりました。本図では、芳年は僧侶の姿をした土蜘蛛が半透明の巣網で頼光を絡め取ろうとし、頼光が膝丸を抜こうとする瞬間を迫力たっぷりに描いています。土蜘蛛のぎょろりとした黄色い目玉の描写が印象的です。
展覧会カタログ
本展カタログ「月岡芳年 妖怪百物語」を2,484円(税込)にて販売します。芳年を巡る 入館料相互割引プラン
本展チケットを横浜市歴史博物館の下記展覧会でご提示いただくと、団体料金でご覧いただけます。また、下記展覧会のチケットを当館でご提示いただくと、「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」展を100円割引でご覧いただけます。
※1枚につき1名様、1回限り有効、他の割引との併用はできません。
横浜市歴史博物館
丹波コレクションの世界Ⅱ 歴史×妖×芳年
2017年7月29日(土)~8月27日(日)
入館料
リピーター割引 「月岡芳年 妖怪百物語」および「月岡芳年 月百姿」両展覧会の会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて200円割引いたします。
※チケット購入時に半券をご提示下さい。他の割引との併用はできません。
一般 | 1000円 |
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大高生 ※学生証をご提示ください。 | 700円 |
中学生以下 ※中学生は学生証(生徒手帳)をご提示ください。 | 無料 |
開館日カレンダー
休館日
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- 2017年7月
SUN MON TUE WED THU FRI SAT 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
- 2017年7月
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2017年8月特別展
SUN MON TUE WED THU FRI SAT 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
大江戸クルージング
今、2020年の東京オリンピックに向けて、東京の水辺の魅力を再認識し、観光や交通手段として舟運を見直す動きが注目されています。実は現在の東京からは想像もつかないほど、昔の江戸は市中に堀や水路が縦横に張り巡らされ、隅田川や江戸湾にも囲まれた「水の都」でした。当時の浮世絵には、隅田川などの川で舟遊びを楽しむ人々や、現在のタクシーのように、各地の船宿から出る乗合船を交通手段として使う人々、そして日本各地から集まってきた物資を江戸市中に運ぶ舟運の様子などが数多く描かれており、水辺と船が庶民の生活に密着した、非常に身近な存在であったことがうかがわれます。中でも両国の夏の納涼は江戸の一大イベントで、船遊びや花火を楽しむ人々が大挙して押寄せ、川面には大小の船が所せましと浮かびました。本展は、浮世絵を見ながら江戸のさまざまな水辺をクルージング気分でめぐる、夏にぴったりの展覧会です。
江戸の水辺をクルージング!
日本橋をスタートして、クルージング気分で江戸の町をめぐってみましょう。日本橋川や佃島近辺、隅田川、小名木川、芝浦など、江戸のさまざまな水辺を描いた作品を紹介します。
隅田川で納涼!-舟遊びと花火
隅田川では、毎年5月28日の川開きから8月28日までが納涼の期間と定められていました。両国周辺では花火が打ち上げられ、川面には舟遊びを楽しむ膨大な数の船が浮かびました。
江戸を飛び出し、日本各地の海へ
江戸の水辺を楽しんだ後は、日本各地の水辺をクルージング。多くの参詣者で賑わった江ノ島や、海運で栄えた日本各地の港を描いた作品を紹介します。
江戸時代のさまざまな船
屋形船、屋根船、船の乗客に飲食物を売って回る煮売船など、船遊びに用いられた船や、弁財船や高瀬船といった舟運に用いられた船まで、浮世絵に描かれたさまざまな船を紹介します。
<見どころの一点>
歌川国貞(三代豊国)「極暑あそび」
隅田川を一艘の屋根船が進みます。右手に見えているのが両国橋とすると、屋根船の左手奥にみえる対岸の橋は薬研堀にかかる難波橋となります。「極暑」と題名にあるように、夏の暑い最中、隅田川で歌舞伎役者たちが舟遊びをする様子を描いた作品です。屋根船の中に見える役者は八代目市川団十郎、初代坂東しうかなど。船の中には皿に盛られた料理も見えています。本図でなんといっても目を引くのは、手前の川で泳ぐ役者たちの姿でしょう。役者たちはただ泳いでいるのではなく、「かへるおよぎ」「雷盆(すりばち)およぎ」「徳利もち立游(およぎ)」「しやちほこ立游」「土左衛門およぎ」など、現代のシンクロナイズドスイミングも彷彿とさせる、凝ったユーモラスな泳ぎを披露しています。船中の役者たちは、体を張った水中の役者たちの泳ぎをつまみに酒を飲んでいるという訳です。ちなみに船中の役者が若手の花形役者たちなのに対し、手前は二代目中山文五郎、初代市川広五郎ら格のそれほど高くない脇役系の役者たちであることがやや哀愁を誘います。
イベント
学芸員によるスライドトーク
展覧会の見どころを担当学芸員が解説します。
日程 | 2017年7月6(木)、12日(水)、17日(月・祝) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
馬琴と国芳・国貞 八犬伝と弓張月
今年は馬琴誕生250年
曲亭(滝沢)馬琴は、江戸時代のベストセラーである『南総里見八犬伝』の作者として、現在でも高い人気を誇っています。馬琴の執筆した『南総里見八犬伝』や『椿説弓張月』は、小説の枠に収まらず、歌舞伎として上演されたり、浮世絵として絵画化されたりしました。今年は馬琴が誕生してからちょうど250年にあたります。本展ではそれを記念して、馬琴の小説を題材とした浮世絵約80点をご紹介いたします。
国芳VS国貞 人気絵師の対決
『南総里見八犬伝』ブームの源流
『南総里見八犬伝』は28年の歳月をかけて書き継がれた、江戸時代屈指のロングセラーでしたが、現代になっても、その形を変えながら、物語は受け継がれています。昭和48年(1973)のNHK人形劇『新八犬伝』や、昭和58年(1983)の深作欣二監督の角川映画『里見八犬伝』をご記憶の方は多いことでしょう。今年になっても、歌舞伎や演劇として上演されており、その人気は色あせておりません。八犬伝ブームの源流を浮世絵から探ります。
<見どころの一点>
歌川国芳「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」(個人蔵)
まるで怪獣のような巨大なワニザメのインパクトが強く、国芳の代表作の一つに数えられていますが、実はこの作品も馬琴の物語を題材にしています。平安時代の豪傑・鎮西八郎為朝を主人公にした波乱万丈の冒険ストーリーである『椿説弓張月』の一場面。暴風雨に巻き込まれた為朝とその仲間たちを、烏天狗やワニザメが救出に訪れました。馬琴の物語を知ると、浮世絵をより深く鑑賞することができます。
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 |
2017年6月4日(日)・13日(火)・23日(金)
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
休館日
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2017年6月
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浮世絵動物園
後期 5月2日(火)~28日(日)
帰ってきた「浮世絵動物園」~猫から龍まで大集合~
ペットとして愛された猫や金魚、擬人化されたタコや狐、龍や河童。2010年に多彩な動物を描く浮世絵をご紹介し好評を博した「浮世絵動物園」展がパワーアップして帰ってきます。展示総数は前回の2倍となる約160点。前回をご覧になった方もそうでない方も、きっとお気に入りの動物に出会えるはず。この春は美術館でもかわいい動物の姿をお楽しみください。
国芳だけじゃない!巨匠たちの動物くらべ
動物を描く浮世絵と言えば、歌川国芳によるかわいい猫の絵を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、動物を得意としたのは国芳だけではありません。本展には鈴木春信、葛飾北斎、歌川広重、月岡芳年、河鍋暁斎といった名だたる絵師たちが登場。それぞれの個性が発揮された動物描写も注目です。
擬人化された動物たち~遊ぶ・食べる・喧嘩する~
国宝「鳥獣戯画」(平安~鎌倉時代)からディズニー映画まで、擬人化された動物の活躍は長く愛されてきました。浮世絵でもタコが踊り、鳥が芸を披露し、猫はお蕎麦を食べて。ほかにも相撲をとったり喧嘩したりと大忙し。身近な動物たちが江戸っ子さながらに振る舞う愉快な姿は、本展の見どころのひとつです。
珍獣いろいろ
全ての干支を合体させた「家内安全ヲ守 十二支之図」のように、実際には存在しない空想上の動物も描かれました。一方で、舶来し見世物として話題を呼んだ象や豹を写した絵、珍しい生物を図鑑の挿絵のように精緻に描写した作品も残されます。絵師たちは創造力と観察眼とを発揮しながら様々な珍獣の絵を世に送り出したのです。
暮らしのなかの動物
暦や時間、方位を表す際に干支を用い、労働力として牛や馬が欠かせなかった江戸時代。浮世絵にはペット以外にも暮らしに溶け込んだ動物が様々に登場しており、はては着物にも多くの動物模様が見いだせるほど。こうした作品は人々と動物との関係が現代よりも密接であったことをうかがわせます。
<見どころの一点>
歌川芳豊「中天竺馬爾加国出生新渡舶来大象之図」前期展示
動物園に行けば必ず目にする象。子供から大人まで人気の動物ですが、江戸時代には日本に生息していない珍獣中の珍獣でした。絵のモデルは幕末の文久2年(1862)、アメリカ船がマラッカから横浜にもたらした象で、本図は翌3年、両国での見世物興行の際に制作されたものです。この象はなんと10年以上も日本全国を巡業しました。長い鼻を器用につかう愛嬌のある姿はお馴染みのものですが、画中文字には「一度此霊獣を見る者ハ七難を即滅し七福を生ず」とあります。つまり、福を呼ぶご利益のあるありがたい動物として宣伝されているのです。現代人とは異なる江戸っ子の象への眼差しがうかがわれます。
イベント
学芸員によるスライドトーク
展覧会の見どころを担当学芸員が解説します。
日程 | 2017年4月8(土)、11日(火)、19日(水)、 5月11日(木)、17日(水)、23日(火) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |