生誕250年記念 歌川豊国 ―写楽を超えた男
※9月16日より一部の作品を入れ替えます。
写楽を超え、歌麿に挑み、北斎と競った男
2019年は初代歌川豊国(1769~1825)の生誕250年にあたります。歌川豊国は歌川派の開祖豊春に入門し、寛政時代(1789~1801)に東洲斎写楽、勝川春英らと役者絵の分野で競いました。豊国の透明感のある爽やかな画風は、「あまりに真を描かんとて」と当時評された東洲斎写楽を退け、役者絵の世界を席巻したのです。豊国は美人画でも、人気絵師である喜多川歌麿に挑み、歌麿描く艷やかな女性とは異なる、健康的で柔らかな雰囲気の女性を描いて人気となりました。また読本や合巻といった版本挿絵の世界では、葛飾北斎とも人気の上で互角に渡り合い、精力的に作品を生み出しています。
さまざまなジャンルの第一線で作品を描き続けた豊国のもとには、才能あふれる若い絵師たちが集まり、幕末に歌川派が浮世絵の最大流派となる礎となりました。豊国は近年人気の高い歌川国芳、歌川国貞の師匠としても、浮世絵史上に重要な意味を持つ絵師ですが、これまでその画業全体を紹介する展覧会はほとんど行われてきませんでした。本展は、豊国の作品を幅広く紹介し、その魅力に迫る回顧展です。
写楽を超えた役者絵 -「役者舞台之姿絵」でトップランナーへ
豊国は江戸の歌舞伎役者を描いた役者絵というジャンルで、スター絵師へと上り詰めます。豊国の出世作となったのは、「役者舞台之姿絵」というシリーズ。寛政6年(1794)の正月から売り出されたこのシリーズは、透明感のある爽やかな筆致で描き出される歌舞伎役者の姿が大人気となります。同じ年の5月に版元、蔦屋重三郎から豪華な黒雲母摺の大首絵28枚からなるシリーズで鮮烈なデビューをしたのが、東洲斎写楽。すでに大御所であった勝川派の勝川春英と三つ巴の争いとなりましたが、写楽はあまり人気が続かずに10ヶ月ほどで姿を消し、春英も数年後には役者絵から手を引きました。豊国は人気、実力ともに役者絵のトップランナーとなり、自己の表現を追求していくこととなります。
歌麿に挑んだ美人画 -武家の女性から最下級の遊女まで描く
豊国は歌舞伎役者だけでなく、美人を描く名手でもありました。豊国がデビューした頃に美人画で人気のあった絵師、喜多川歌麿の描く艶やかな女性とは毛色の違う、健康的で柔らかな女性像を描き、人気となります。また豊国は、市井のさまざまな職業や階層の女性に目を向けたことでも知られています。『絵本時世粧(えほんいまようすがた)』という作品では、武家の高貴な女性から長屋の女房、農家の女性、吉原の高位の花魁から、小舟の上で仕事をする最下級の遊女「船饅頭」まで、ありとあらゆる当時の女性風俗が捉えられています。
北斎と競った版本挿絵 -売れっ子絵師・豊国のちょっと困ったエピソード
役者絵、美人画で人気となった豊国は、読本、合巻などの版本挿絵の分野では北斎と人気を競い合い、いくつもの版元の依頼を受けて締切に追われ、しばしばカンヅメとなる超売れっ子絵師でした。しかし、決して筆は早い方ではなかったようです。ある裏屋でカンヅメとなっていた時、花見の時期なので豊国が隅田川辺りに繰り出したいと言ったところ許されず、一計を案じた版元が桜の枝を取ってきて部屋に生け、なんとか絵を描かせたという話や、式亭三馬と組んだ『阿古義物語』という読本では、豊国がなかなか挿絵を描かず、三馬や版元が怒ったり、一部を弟子の国貞が手伝って出版にこぎつけたという話も残っています。どこか昭和の流行漫画家を彷彿とさせるような、大物ぶりを感じさせるエピソードです。
国芳のルーツ? 豊国のユーモアあふれる戯画
豊国は、数は少ないものの、味わい深い戯画を残しています。図に描かれるのは、猫の振りをする男性。男性がじゃれているのは、「餅花」といって、正月に柳の木などに小さく切った餅などを刺して飾るもの。手ぬぐいや着物で猫を表現した男性のユーモラスな表情がなんともおかしいです。この絵と同時期に、山東京伝作、歌川豊国画の同じような趣向の滑稽本『腹筋鸚鵡石(はらすじおうむせき)』が出ており、本図はその錦絵版とも言える作品です。豊国の弟子である国芳は、猫を擬人化した戯画を数多く描いており、豊国のこうした戯画は、ある意味、国芳のルーツとも言えるものかもしれません。
見どころの作品
歌川豊国「夜舟の宗十郎」(太田記念美術館蔵)
人気役者の日常の姿を美人とともに描いた、シリーズ物の一点です。本図に描かれるのは、猪牙舟の炬燵に入り、背を丸めた三代目沢村宗十郎。画面からは、冷え冷えとした空気が伝わって来るようです。船着き場には女性が佇んでおり、人気役者の姿に気づいたのか、驚いたような仕草を見せています。画面上から黒のぼかし下げで夜を表現しており、女性の手にした提灯から漏れる光の描写も印象的。役者絵と美人画を両方得意とした、豊国ならではのセンスあふれる一点と言えるでしょう。三代目沢村宗十郎は兄の三代目市川八百蔵とともに寛政時代(1789~1801)の江戸歌舞伎で大活躍した役者で、豊国や東洲斎写楽、勝川春英といったこの時期の浮世絵師によって多く描かれています。
展覧会図録
本展の展覧会図録を販売しています。
価格 ¥2,000(税込)
全140頁
本展の展示作品140点を完全収録
- ◇豊国と歌川派を知る論文
- 「歌川豊国の画業」渡邉晃(太田記念美術館主幹学芸員)
- 「豊国一門の中堅三羽烏」兼松藍子(藤沢市藤澤浮世絵館学芸員)
- 「文化期の美人画について-歌川豊国を中心に-」赤木美智(太田記念美術館主幹学芸員)
- ◇充実のコラム
- 「寛政の役者絵界と豊国」「豊国と版元」「笹色紅と豊国美人」ほか
- ◇豊国資料
- 「歌川豊国略年譜」「主要参考文献」「歌川豊国の初期落款」
通信販売をご希望の方はこちらをご覧ください。
初代歌川豊国生誕250年記念連携企画
歌川豊国の生誕250年を記念し、太田記念美術館と国立劇場伝統芸能情報館が連携して展覧会を開催します。国立劇場伝統芸能情報館(東京都千代田区隼町4-1)
「歌川豊国 ―歌川派の役者絵―」
会期 2019年10月2日(水)~2020年1月27日(月)
第75回伝統芸能講座「歌川豊国 ―画業と作品の魅力-」
日時 2019年9月6日(金) 午後2時
講師 渡邉晃(太田記念美術館主幹学芸員)
第76回伝統芸能講座
「歌川派の役者絵 ―江戸の役者に会いにいこう―」
日時 2019年10月14日(月・祝) 午後2時
講師 兼松藍子(藤沢市藤沢浮世絵館学芸員)
詳しくは国立劇場伝統芸能情報館へお問合せください。
https://www.ntj.jac.go.jp/tradition.html
TEL 03-3265-7411秋の歌川派フェスタ -豊国から国芳、芳年へ
2019年後半、太田記念美術館では歌川派を連続特集! 3展制覇でプレゼントも
歌川派は、豊国の師匠である歌川豊春から始まりました。豊春の弟子である豊国の門下には国貞、国芳らがおり、また豊春のもう一人の弟子である豊広の門下には広重が出ました。さらにその門下にも多数の絵師が出て、明治にいたるまで歌川派は続いていくのです。特に9月の「生誕250年記念 歌川豊国」で取り上げる豊国は、歌川派の繁栄の基礎を築いた重要な絵師です。太田記念美術館では、続く2019年10月に「歌川国芳 -父の画業と娘たち」、11、12月に「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち -悳俊彦コレクション」という展覧会を開催予定。10月には豊国の重要な弟子である歌川国芳、また11、12月には、国芳の弟子である芳年や、その門人たちの作品が多数登場します。9月の「歌川豊国」から、歌川派の中の、特に歌川国芳系の流れが体感できるような構成となっておりますので、ぜひ3つの展覧会を続けてお楽しみいただければ幸いです。
- ①9/3~9/29「生誕250年記念 歌川豊国 ―写楽を超えた男」展
- ②10/4~10/27「歌川国芳 ―父の画業と娘たち」展
- ③11/2~12/22「ラスト・ウキヨエ 浮世絵を継ぐ者たち ―悳俊彦コレクション」展
3つの展覧会すべてにご来場いただいたお客様にオリジナルグッズをプレゼント。
3種類のチケット半券を集めて当館受付にお持ちください。オリジナルグッズと引き換えます。プレゼントの引き換えは11月2日(土)から、なくなり次第終了します。
入館料
一般 | 1000円 |
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大高生 | 700円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
休館日
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2019年9月
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