2010年度の展覧会
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特別展2010年10月1日(金)~11月28日(日)1期:2010年10月1日(金)~10月17日(日) 2期:2010年10月19日(火)~11月7日(日) 3期:2010年11月9日(火)~11月28日(日)
日独交流150周年記念 ハンブルク浮世絵コレクション展 -ハンブルク美術工芸博物館の浮世絵を初公開-
2期:2010年10月19日(火)~11月7日(日)
3期:2010年11月9日(火)~11月28日(日)
※各会期ごとに、作品はほぼ入れ替えとなります。
10月4・12・18・25日/11月1・8・15・22日は休館となります。
主催:太田記念美術館、ハンブルク美術工芸博物館、
日本経済新聞社
後援:ドイツ連邦共和国大使館
ハンブルク浮世絵コレクション展作品リスト [3,218KB]
はじめに
今年は、日独交流150周年の記念の年です。ドイツと日本は、1860年にプロイセンの東アジア遠征団が江戸沖に来航して以来、長きにわたって交流を重ねてきました。この日独交流150周年を記念し、ドイツ第二の都市ハンブルクから、世界的な浮世絵コレクションが里帰りいたします。 1877年に開館したハンブルク美術工芸博物館は、ドイツでも有数の博物館として知られています。同館の収蔵品は約100万点を数え、ヨーロッパやアジアなど広範な地域や時代を網羅するコレクションには、数多くの浮世絵も含まれています。さらに近年、ハンブルク在住のコレクター、故ゲルハルト・シャック氏の浮世絵コレクションが氏の遺言によって同館に遺贈されました。シャック氏は代々の資産家で、ほとんど自宅から出ることなく生涯を浮世絵収集と研究にささげ、膨大なコレクションを築きあげた人物です。シャック氏の存在はこれまであまり知られていませんでしたが、今回の調査で有名絵師の作品はもちろん、数多くの摺物や、画稿、版下などの幅広い資料を含む、きわめて魅力的なコレクションの全貌が明らかとなったのです。
本展では、実に5000点を超える同館所蔵の浮世絵の中から、そのほとんどが初公開となる約200点を選りすぐって展観いたします。春信・歌麿・写楽・北斎・広重といった人気絵師たちの作品がたっぷり楽しめるのはもちろんのこと、中でも注目されるのは美しい彫・摺がほどこされた稀少な摺物の数々。そして校合摺、版下絵、画稿、版木といった、浮世絵制作の様子を現代に伝える珍しい資料を含め、バラエティに富んだ作品が一堂に勢ぞろいします。本展覧会は名品を楽しむだけでなく、浮世絵をもっともっと深く知ることのできる絶好の機会といえるでしょう。
世界有数の浮世絵コレクションが里帰り
ハンブルク美術工芸博物館のコレクションのうち日本美術は約1万点を数え、うち2000点が浮世絵作品となっています。同館での浮世絵収集が開始されたのは開館当初からとされ、パリの美術商であるジークフリート・ビング(1838~1905、ハンブルク出身)や、林忠正(1853~1906)らの大きな関与があったと考えられています。近年、故ゲルハルト・シャック氏(1929~2007)から遺贈された作品は版画約2000点、掛幅40点、スケッチ類1600点、版本300点などに及ぶ質量ともに素晴らしいものです。この遺贈によりハンブルク美術工芸博物館の浮世絵作品は全体で5000点を超え、世界でも有数のコレクションとしてますます充実した内容を備えるようになったのです。
優品にみる浮世絵の展開 ―師宣から北斎まで―
最初の浮世絵師ともいわれる菱川師宣の作品にはじまり、多色摺の版画である錦絵を草創した鈴木春信の「三十六歌仙 源宗于朝臣」、俗に浮世絵の黄金時代と称される天明・寛政期(1781~1801)に活躍した喜多川歌麿の「六玉川 高野の玉川」、東洲斎写楽の大首絵「松本米三郎のけはい坂の少将実はしのぶ」、今年生誕250周年で話題の葛飾北斎が描いた代表的シリーズ「冨嶽三十六景」、歌川広重の名作「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」など、本展では幅広い時代から数多くの名品が出展され、展覧会を通じて浮世絵の主要な流れが体感できるでしょう。美しい彫と摺の世界 ―稀少な摺物を多数出品―
ハンブルク美術工芸博物館が誇る浮世絵コレクションの中でも、最も注目されるのは数多くの摺物でしょう。摺物とはプライベートな目的で制作された浮世絵版画の一種です。一般の浮世絵とは違い、少数注文により豪華な用紙や高い彫・摺の技術が結集されたもので、その精緻な美しさから近年世界中で注目を受けています。本展ではフランスの文豪エドモン・ド・ゴンクールが旧蔵していたことでも知られる24図からなる摺物貼をはじめ、葛飾派を中心としたすばらしい質と量を誇る同館所蔵の摺物を多数ご紹介いたします。版本と肉筆画
コレクションに含まれる数多くの版本のうち、鈴木春信「青楼美人合」や北尾重政・勝川春章合筆からなる「美人合姿鏡」、喜多川歌麿による豪華な狂歌絵本など、厳選された名品が展観されます。また絵師の生の筆致を伝える肉筆の画軸では、北尾重政の名品「久米仙人と洗濯美人」、歌川広重の珍しい若描きの作品をはじめ、勝川春章、河鍋暁斎らによる作品をご紹介いたします。江戸の浮世絵制作を知る ―画稿、版下絵、校合摺、版木―
絵師が描いたスケッチともいえる「画稿」、版木に彫る直前に描かれた精密な下書き「版下絵」、色を摺る前に墨一色の版木を試し摺りした「校合摺」、そして版木など、本コレクションには浮世絵の制作途中で生み出される貴重な資料が数多く含まれているのも特徴のひとつです。中でも北斎「冨嶽三十六景」の6点におよぶ校合摺は他に例のない珍しいもの。江戸の浮世絵制作の世界を知るとともに、当時の職人たちの高い技術をぜひご観賞ください。入館料
リピーター割引あり(会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券と引換にて200円割引いたします)
一般 | 1000円 |
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大高生 | 700円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
浮世絵にみる意匠 -江戸の出版デザイン-
2月7・14日は休館となります。
※展覧会の図録は作成いたしません。
はじめに
浮世絵を見て現代の人が感じる魅力のひとつに、その優れたデザイン性があります。大胆な構図、鮮やかな色彩、そして画面にアクセントを添えるコマ絵や装飾…。浮世絵が印象派を中心とした西洋美術に影響を及ぼしたことは広く知られていますが、彼らを魅了した大きな理由のひとつに、そのデザイン性が挙げられることは疑いの余地がないでしょう。浮世絵の歴史を眺めてみると、それはまさにデザインの歴史とも言え、様々な構図や、色彩や、装飾的要素が少しずつ工夫され、長い年月をかけて発展したものであることが分かります。現代の商業デザインがそうであるように、浮世絵は商業的な枠組みの中で、版元や購買者のニーズにあわせて作られたものです。浮世絵を売るためには少しでも奇抜で人目を引くものを常に出版し続けなければなりません。そのため、絵師や版元は血のにじむような努力で新しい構図や、色彩や、画面を彩るデザインを日々考え出したのです。そうした過程を経て、幕末には浮世絵デザインの集大成とも言える、複雑なレイアウトや装飾を伴った高度な作品が大量に出版されています。
本展は江戸の人々を楽しませ、現代人をも魅了する浮世絵の高度なデザインが、どのように形作られていったのかを探る展覧会です。江戸の出版人たちの、細やかかつ大胆なデザインへの挑戦をお楽しみください。
浮世絵をレイアウトする ―判型や構図のいろいろ―
サイズの小さな「細判」、より大画面の「大判」、縦に細長い「柱絵判」、ワイドな横画面の「大判三枚続」、時には画面を線で区切って6分割や9分割にするなど、浮世絵ではその長い歴史の中でさまざまな「キャンバス」のサイズが考案され、絵師たちはそのサイズを生かしたレイアウトを考えました。例えば鳥居清長は縦に極端に長い柱絵判に、すらりとした女性の全身像を描き、勝川春潮は大判三枚続に女性たちの群像を捉え、勝川春好は浮世絵のサイズが細判から大判へと拡大する流れの中で、大判の大画面を活かして役者の顔をクローズアップする「大顔絵」を手がけ、のちの写楽らに影響を与えたのです。
浮世絵をいろどるさまざまな意匠 ―コマ絵とフレーム―
扇形、円形、州浜形、羽子板、鏡など、浮世絵師たちはさまざまなモチーフを用いて浮世絵を自在にデザインしました。これらのモチーフは人物の周りにほどこされる「画面枠(フレーム)」、現代のコミックに見られるコマそっくりの「コマ絵」などに用いられ、浮世絵に洒落たアクセントをつけているのです。単にデザイン的に美しいだけでなく、コマの中に絵に関係する風景が描かれていたり、謎ときが隠されていたり…。その趣向は、幕末に近づくにつれさらに洗練され、高度になっていきました。浮世絵師や版元の尽きないアイデアは、現代の目から見ても十分に楽しめるものといえるでしょう。<見どころの一点>
溪斎英泉 「江戸両国橋ヨリ立川ヲ見ル図」
両国橋を左手に、立川方面を眺めた風景画です。しかし絵を見るより先に、まず目に飛び込んでくるのは黒字に何やらアルファベット風の文字が並んだ画面枠。ほとんどは意味のない文字ですが、画面右上に一部文字が逆さまながら「Holland(オランダ)」と読める部分、数カ所にオランダ東インド会社の略称「VOC」をデザイン化したマークが見られます。面白いのが画面中央下に見える「板元」の文字と、その間にあるマーク。実はこのマークは江崎屋辰蔵の版元印で、周囲の欧風の文字にうまく溶けこませているのです。まるで西洋の額縁のようなデザインが効果的な一枚です。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
小林清親
はじめに
浮世絵の歴史の掉尾を飾る明治時代の浮世絵師、小林清親(1847~1915)。光と影のうつろいを情感豊かに描いた「光線画」と呼ばれる風景画で一躍有名になりましたが、それにとどまることなく、まるで西洋画のような写実的な花鳥画や、ユーモアあふれる風刺に満ちたポンチ絵、さらには歴史画や美人画など、多岐に渡るジャンルを手掛けました。本展では、代表作からあまり知られていない稀品まで、魅力あふれる多彩な作品を通して小林清親の全貌を紹介いたします。1.闇を照らす光 ―光線画の魅力
浮世絵の歴史の掉尾を飾る明治時代の浮世絵師、小林清親(1847~1915)。光と影のうつろいを情感豊かに描いた「光線画」と呼ばれる風景画で一躍有名になりましたが、それにとどまることなく、まるで西洋画のような写実的な花鳥画や、ユーモアあふれる風刺に満ちたポンチ絵、さらには歴史画や美人画など、多岐に渡るジャンルを手掛けました。本展では、代表作からあまり知られていない稀品まで、魅力あふれる多彩な作品を通して小林清親の全貌を紹介いたします。2.写実表現への挑戦
清親は光線画を手掛けるかたわら、動植物や静物などのモチーフを木版画で写実的に描いています。西洋の油絵に迫るような立体感や陰影の表現は、木版画とは思えないほどの高い技術が駆使されており、伝統に縛られない清親の新たな表現の試みと言えるでしょう。3.笑いを誘う風刺画 -ポンチ絵
明治14年(1881)以降、清親は光線画の制作を取りやめ、「ポンチ絵」と呼ばれる風刺画を積極的に描くようになります。庶民たちの暮らしの一場面を面白おかしく描いた現代の漫画に通じるような作品群ですが、中には時の政府を揶揄するものも含まれていました。抒情豊かな光線画で知られる清親ですが、反骨精神に富んだ一面もあったのです。<見どころの一点>
「開化之東京 両国橋之図」
両国橋やそこを行き交う人々、隅田川を渡る船などを黒いシルエットでまとめ、提灯やガス灯、家の窓の明かりと対比させることにより、夜の光の輝きを際立たせています。肉筆による清親の光線画として珍しい作品です。同時期に活躍したアメリカ人画家ホイッスラーの「青と金のノクターン-オールド・バターシー・ブリッジ」と構図や色彩感覚が非常に類似しており、浮世絵が欧米に与えた影響を考える上でも大変興味深くあります。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
太田記念美術館収蔵品展
はじめに
今回の収蔵品展では、「市井の風俗を描く」「古典を描く」「顔を描く」とする三部構成とし、通常のテーマごとの展示ではあまり紹介されることのない作品を中心に展観いたします。本展を機会に太田記念美術館が有するコレクションの魅力を、より深くお楽しみいただければ幸いです。1.市井の風俗を描く
市井の風俗を描く作品の中から、戦国時代に制作された「洛外名所図」を中心に、庶民の生活を捉えた江戸時代の浮世絵を含めご紹介いたします。それぞれの時代を力強く生きる、人々の活気ある姿をご覧ください。2.古典を描く
浮世絵において人気の歌舞伎役者や美しい女性など、当時の流行の風俗を描くことはとても重要でした。しかし一方で『源氏物語』や『三国志』をはじめとする、日本や中国の古典世界をふまえた作品も多く見られます。時代の流行と古典世界とを自由に行き来する、江戸の人々の豊かな発想力をお楽しみください。(1)浮世絵にひそむ雅(みやび)-日本の古典-
『伊勢物語』「筒井筒(つついづつ)」の次の場面に取材した作品です。他の女性のもとに通う夫を機嫌よく送り出す妻に対して、妻の浮気を疑う夫は、一旦家を出た後、庭先に身を潜めて妻の様子をうかがいます。一人になった妻は夫の無事を気遣う和歌を口にし、その姿に夫は胸をうたれるのでした。本図ではこの貞淑な妻を、流行の着物に身を包んだ遊女に置き換えて描いています。
『源氏物語』を題材に江戸の名所を描いたシリーズ。配流となった光源氏は明石の地で、十三夜の日に明石の君と結ばれます。本図では、江戸の月の名所として知られた高輪と、平安時代の光源氏と明石の君との恋物語が重ねられているのです。
(2)浮世絵のなかの異国-中国の古典-
いたずらっこが少女の琴の稽古を邪魔しています。少年は奪った琴柱(ことじ)をこたつの上からばらまいています。実はこの琴柱は、源泉を中国山水画の「瀟湘八景」にさかのぼることができます。中国の洞庭湖周辺の美しい8つの景色を描くこの画題は日本でもさかんに描かれました。落下する琴柱には、「瀟湘八景」に登場する飛来する雁の姿が重ねられているのです。江戸っ子は中国の伝統的な画題さえ身近な情景に取り込んでしまいました。
本を読む、若く美しい新造(見習遊女)。実在する七人の新造を、中国の竹林に集まって清談を行った7人の賢人「竹林七賢」になぞらえたシリーズの一図です。背後の屏風に何気なく描かれた水墨画の竹も、遊郭を舞台に生きる新造と中国の賢人という、まったく異なる両者を結びつける重要なモチーフなのです。
3.顔を描く
いかめしい顔の老人を描く肖像画、あるいは美しく理想化された役者の顔。江戸時代はさまざまな顔が描かれた時代でもありました。当時の人々の顔を描くことへの関心に触れながら、どんな顔に出会えるか楽しみながらご覧ください。
渡辺崋山「芭蕉肖像真蹟」
6人の高名な俳人を描いたシリーズのうちの一図。芭蕉は穏やかな表情ながらも、眼には鋭さも湛えています。横には笠をくくりつけた杖があり、旅を愛した俳人のイメージがよく伝えられています。
<見どころの一点>
歌川国芳「通俗三国志之内 孔明六擒孟獲」(つうぞくさんごくしのうち こうめいむたびもうかくをとりこにす)
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
いざ討ち入り! 浮世絵忠臣蔵
はじめに
今から約300年前に起きた赤穂浪士による仇討ち「元禄赤穂事件」は、現在でもしばしば小説やドラマ・映画化され、多くの人に親しまれています。元禄15年(1703)12月14日、播州赤穂藩の藩主浅野匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)の仇をとるため、47人の浪士が吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしひさ)の屋敷に討入り、その首を打ち取りました。まさに劇的といえる事件の内容は、当時の人形浄瑠璃や歌舞伎にも盛んにとりいれられます。中でも「仮名手本忠臣蔵」は高い人気を誇り、初演から250年以上を経た現在でも上演が繰り返されています。当時の流行を写し取るメディアであった浮世絵にも、忠臣蔵の物語はさまざまな形で取り上げられました。「仮名手本忠臣蔵」の舞台や、出演した各時代の歌舞伎スターたちがしばしば描かれることはもちろん、時には登場人物を女性に置き換えるなどのユニークな趣向も見られます。今に残る、忠臣蔵を題材とした数多くの浮世絵は、江戸の人々のこの物語への熱狂や、深い愛着を伝えてくれるのです。
現代からみても興味の尽きない忠臣蔵の物語。浮世絵に描かれたその世界を通じて、改めて忠臣蔵の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
1.描き続けられた仇討ちのストーリー
北斎・豊国・広重・国芳―。当時の人気絵師たちは、さまざまな趣向を凝らして忠臣蔵を浮世絵に描きました。歌舞伎の舞台を写しとった役者絵はもちろん、浮絵(遠近法を強調した浮世絵のこと)の手法で忠臣蔵の物語を描く形式も人気を呼び、多くの作が出版されています。また、忠臣蔵の登場人物たちを当時の美人や動物に見立てた浮世絵まで、バラエティに富んだ作品から忠臣蔵の高い人気を偲ぶことができます。2.仮名手本忠臣蔵と江戸のスターたち
元禄赤穂事件は、事件後からすぐに人形浄瑠璃や歌舞伎へと取り入れられます。この事件を題材とした数多くの狂言が作られる中、その決定版とも言える「仮名手本忠臣蔵」が人形浄瑠璃で上演されたのは事件から50年近く経った寛延元年(1748)のこと。翌年には歌舞伎でも上演され、以降、各時代を代表する名優たちが忠臣蔵の登場人物を演じ続けました。本展では浮世絵に数多く写し取られた、名優たちの姿をご紹介いたします。<見どころの一点>
歌川国芳「蝦蟇手本ひやうきんぐら(大序・二段目)」
幕末の奇才・歌川国芳による一点。上の絵が仮名手本忠臣蔵の大序、下の絵が二段目の松切りの場面を描いています。よく見ると、役者の顔がカエルになっていることに気づきませんか?絵のタイトルは「蝦蟇手本ひやうきんぐら(がまでほんひょうきんぐら)」。忠臣蔵の登場人物に扮するカエルたちの顔は、人物によって細かく描き分けられているようです。実はこのカエルたち、四代目中村歌右衛門など、当時の人気役者の似顔をカエル風にアレンジしたものなのです。現代の目から見ても思わず笑みがこぼれてしまう、国芳らしいユーモアのセンスにあふれた傑作といえるでしょう。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
江戸ごよみ ~夏から秋へ
はじめに
夏は花火や夕涼み、秋は七夕や月見、虫聞きと、江戸時代の人々は季節の移ろいにあわせてさまざまな行事や習慣を楽しんでいました。本展覧会では、浮世絵に描かれた夏から秋にかけての季節感あふれる江戸っ子たちの暮らしを紹介いたします。夏
秋
<見どころの一点>
歌川広重「東都名所高輪廿六夜待遊興之図」
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
浮世絵動物園
はじめに
鶴や亀などのおめでたい動物、あるいは飼い主のそばでまどろむ猫。浮世絵には、こうした現在の私たちにもなじみ深い動物の姿が多く描かれています。本展では、動物を描いた作品に焦点をあて、小さなお子さまも楽しめるよう、わかりやすくご紹介いたします。身近な動物だけでなく、龍や河童や化け狐など実際には存在しない空想上の生きものから、図鑑の挿絵のように精密に描写したもの、さらには擬人化した遊び心あふれるものまで、浮世絵からは、実に多様な動物たちの姿を見ることができるのです。本展を通して、江戸時代の人々と動物たちとの楽しい関係に触れていただければ幸いです。
1.江戸っ子はペットが大好き!
「ペットブーム」という言葉を聞きますが、実は江戸時代の人々も様々な動物をペットとしていました。今と同様、一番人気だったのは犬と猫。ほかにも金魚やネズミやウサギ、イタチまでがペットとして飼われていました。また、鷹狩りに使う鷹や乗馬用の馬の所有は、権力者のステータスシンボルでもありました。浮世絵に登場する犬や猫たちが飼い主のそばでなごむ様子からは、彼らが家族の一員として大事にされていたことが伝わってきます。2.おめでたい動物・干支の動物
「鶴は千年、亀は万年」と言われる鶴や亀など、おめでたい動物は浮世絵においても大事な題材でした。また年賀状でおなじみの干支の動物たちは、当時は日々の暦や時刻、方位を表す際に用いられた、現代よりも人々の生活に深く結びついた存在でした。そのため干支の動物たちもさまざまに表現されています。3.不思議な生き物 -珍獣から河童までー
江戸時代には、象やラクダ、ヒクイドリなど当時としては珍しい動物が海外からもたらされ、見世物としても人気を呼びました。人々に大きなインパクトを与えたこうした動物たちを浮世絵師たちは描きとめています。さらに絵師たちは、龍や鳳凰などの聖獣、化け狐や河童や大蛇など説話や怪談に出てくる空想上の生きものたちを、ときに恐ろしく、ときにユーモラスに描き出しました。4.擬人化された動物たち
人間のようにものを考え行動する、擬人化された動物が主人公の映画やアニメは、現代でも大人気です。驚くことにすでに浮世絵のなかには、まるで人間のように振る舞う動物を描くものが数多くあります。今もなお見る者の笑いを誘うこれらの作品は、江戸時代の人々の発想の豊かさ、そして動物に対する親しみを私たちに伝えてくれます。<見どころの一点>
歌川広重 東都飛鳥山の図 王子道 狐のよめ入
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
8月に夏休み子ども講座を開催致します。開館日カレンダー
生誕250周年記念 -北斎とその時代-
後期:2010年7月1日(木)~7月25日(日)
※前後期で展示替え
6月7・14・21・28~30日/7月5・12・20日は休館となります。
展覧会の概要
葛飾北斎(1760~1849)は「冨嶽三十六景」や『北斎漫画』を生み出した浮世絵師として日本のみならず世界にその名が知れ渡っています。今年は北斎が生誕して250周年という節目の年にあたりますが、本展覧会ではそれを記念し、北斎の多岐に渡る活動をさまざまな視点で紹介いたします。前期を「変貌し続ける才能」、後期を「晩年の境地「冨嶽三十六景」」と題する二部構成で行い、合わせて200点余りの作品を展示いたします。
全体の見どころ:北斎は天才か?努力家か?
北斎といえば天才的な才能を持つ浮世絵師と思われる方も多いかも知れません。しかしデビューしたての若い頃の知名度はそれほど高くはなく、代表作「冨嶽三十六景」の完成は70歳を過ぎてからでした。従来行われている北斎の展覧会では北斎の業績のみに注目が集まることがほとんどでしたが、本展覧会では、北斎の師匠である勝川春章、あるいは同時代に活躍した喜多川歌麿や歌川広重などのライバルたちの作品を交えて紹介することで、北斎の才能を検証するとともに、北斎がしのぎを削っていた当時の浮世絵界の様子もお伝えします。
前期〈変貌し続ける才能〉の見どころ
北斎といえば富士山を描いた「冨嶽三十六景」が最も知られており、風景画の浮世絵師というイメージが一般には強いかも知れません。しかし北斎は役者絵や美人画、絵本の挿絵など、一つのジャンルにとどまることなく、常に新たな作品を生み出し続けました。前期「変貌し続ける北斎」では、貪欲とまで言える北斎の変貌し続ける才能を紹介いたします。
後期「晩年の境地「冨嶽三十六景」」の見どころ
「凱風快晴」や「神奈川沖浪裏」で知られる北斎の代表作「冨嶽三十六景」は、北斎が70歳を過ぎて辿り着いた晩年の境地とも言える作品です。後期「晩年の境地「冨嶽三十六景」」では、「冨嶽三十六景」全46点はもちろんのこと、同時期の代表作「諸国瀧廻り」や最晩年の肉筆画の傑作「雨中の虎」を紹介するとともに、ライバル広重が描いた富士図などもあわせて紹介いたします。
入館料
一般 | 1000円 |
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大高生 | 700円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
広重「名所江戸百景」の世界
後期:2010年5月1日(土)~5月26日(水)
※前後期で展示替え
4月5・12・19・26~30日/5月6・10・17・24日は休館となります。
※展覧会の図録は作成いたしません。
はじめに
四季折々の江戸の風景を、巨匠・歌川広重が斬新な構図と鮮やかな色彩で描いた「名所江戸百景」。後期印象派の画家ゴッホにも影響を与えるなど、浮世絵版画のなかでも最も広く知られたシリーズの一つです。広重晩年の代表作であると同時に、「亀戸梅屋舗」や「大はしあたけの夕立」など、生涯を通じての名作とも言える作品も多く含んでいます。刊行当時からも評判が高かったようで、「百景」と銘打ちながら最終的には百十数枚が広重の手によって世に送りだされました。本展では、優れた保存状態を誇る太田記念美術館本全点を、前期後期に分けて展観いたします。洋の東西を問わず今日まで人々を魅了してきた「名所江戸百景」。うつろう季節とともに表情を変える情趣ある江戸の風景をお楽しみ下さい。
1.広重晩年の代表作
広重は30代半ばに風景画のジャンルで頭角を現しはじめ、有名な保永堂版「東海道五拾三次」のヒットによって売れっ子絵師となります。以後、62歳で没するまで第一線で活躍を続けました。そして亡くなる安政5年(1858)までの足掛け3年が、「名所江戸百景」の制作に費やされました。江戸の町を「百景」描くという試みは、これ以前にはなかったものです。年を経てなお衰えることのなかった広重の制作意欲を知ることができます。現代の私たちにも馴染み深い名品を多く含む「名所江戸百景」は、まさに風景を描き続けた広重の晩年の大作であり画業の集大成と言えます。2.描かれた幕末の江戸
さまざまに描かれたのどかな景色や、賑やかな年中行事の様子からは、古き良き江戸情趣をしのぶことができます。しかし実際には、刊行の3年前にペリーが浦賀に来航し、前年には安政の大地震が起こるなど、外圧や震災によって世情は不安定さを増していった時代でした。そして広重が没し刊行がひと段落してからわずか10年後、幕末の動乱を経た日本は元号を明治へと変えます。「名所江戸百景」は明治時代以降、すさまじいスピードで様変わりする直前の江戸の姿を切り取っているのです。画面の中に写し取られたすでに失われた風景、あるいは今も変わらぬ姿で残る景色は、現代の私たちに移り変わる都市の様子を伝えてくれます。3.摺りの美しさを楽しむ
浮世絵版画では彫りや摺りにも工夫が凝らされます。たとえば色を用いずに、摺る圧力で和紙に凹凸を付けて立体感を付ける「から摺り」など、さまざまな技法が生み出されました。「名所江戸百景」は、手間のかかる技が惜しげもなく用いられた贅を尽くしたシリーズとなっています。太田記念美術館所蔵本は保存状態が良好で、摺りも絵師・広重の意図が反映されたと思われる早い段階のものと考えられています。浮世絵版画ならではの魅力も是非お楽しみください。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |