江戸の女装と男装
男女の境界を行き来する江戸文化
女装や男装の文化は、洋の東西を問わず、古くから見られるものです。日本では、女装といえば『古事記』に見える、ヤマトタケルが女装して熊襲を退治した話が思い出されますし、また中世の稚児による女装、芸能に見られる女装など、古くから異性装の風俗がありました。 江戸時代にも祭礼で芸者などの女性が男装して出し物を演じたり、男性役者が女装して女性を専門に演じる歌舞伎の女形など、男装や女装の風俗が見られます。また、歌舞伎に登場する女装の盗賊、弁天小僧をはじめ、物語で活躍する異性装の登場人物も広く親しまれました。浮世絵では歴史や物語に登場する人物の男女を入替えて、当世風の人物に置き換えるやつし絵や見立絵も多く描かれています。 男女が入れ替わる趣向という意味では、近年の映画「君の名は。」の大ヒットも思い起こされるところですが、既に江戸時代には、異性装や男女を入れ替えるという発想が、庶民にとって身近なものであったことがうかがえます。本展では、描かれた浮世絵を通して、男女の境界を自由に行き来する江戸時代の風俗や文化の諸相に迫ります。
祭礼で男装する女性たち
江戸時代の遊郭である吉原では、八月になると俄という祭りが催され、メインストリートである仲之町の大通りでは男装した芸者たちによる獅子舞や俄狂言などが演じられました。芸者たちは鳶の扮装をしたり、助六などの有名なお芝居を演じて祭りを盛り上げたようです。山王祭や神田祭など、各地の祭礼でも附祭と呼ばれる同様の風俗が見られます。
物語にみる女装・男装
日本では、『古事記』に見られるヤマトタケルが女装して熊襲を退治した話や、牛若丸が五條橋で女装の稚児として弁慶と戦うという話など、異性装の話は古くから見られます。また江戸時代には、歌舞伎に登場する女装の盗賊、弁天小僧や、小説『南総里見八犬伝』に登場する女装の剣士・犬坂毛野などが人気を呼びました。ここでは、物語に登場する異性装の人物たちを紹介します。
女装のスペシャリスト―歌舞伎の女形
歌舞伎の始まりである出雲の阿国の一座では、阿国などの女性が男装をし、男性が女装をしていたとされます。寛永6年(1629)に女性が歌舞伎に出演することが禁じられて以降、女形(方)が女性を専門的に演じるようになり、女形の名優が数多く登場しました。女形は日常生活でも女性のように暮らすことを推奨されたと言い、いわば女装のスペシャリストとも言えるでしょう。
歌舞伎や浮世絵にみる男女入替え
歌舞伎では「女助六」や「女清玄」のように、通常では立役(男性役)が演じる登場人物を、男女の設定を入替えて女形が演じる趣向があります。また浮世絵では、歴史や物語の登場人物などを、時に男女を入替えて当世風の人物に置き換える「やつし絵」や「見立絵」なども盛んに描かれました。ここでは江戸の庶民たちが楽しんだ、洒落た男女入替えの趣向を紹介します。
見どころの作品
月岡芳年「風俗三十二相 にあいさう 弘化年間廓の芸者風俗」
「風俗三十二相」は、月岡芳年が晩年に手掛けた、32枚からなる美人画の揃物です。寒そう、痛そうなどといった、さまざまな年齢や職業の女性たちの心情を題材にした内容で、本図には「にあいさう」とあります。何が「似合いそう」なのでしょうか。 本図に描かれているのは、画中の説明によると弘化年間(1844~48)の廓の芸者。廓、つまり吉原で八月に行われた祭りである「俄(にわか)」に参加した女芸者が、手古舞と呼ばれる鳶のような扮装をしています。女性は男髷を結った男装で描かれており、手には「俄」と書かれた扇を持っています。描かれた女芸者の男装姿がとても凛々しく、様になっていることから、「似合いそう」とあるのでしょう。
イベント
学芸員によるスライドトーク
展覧会の見どころを担当学芸員が解説します。
日程 | 2018年3月6(火)、15日(木)、21日(水・祝) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |