2015年度の展覧会

錦絵誕生250年記念 線と色の超絶技巧

歌川国貞「東海道五十三次之内 白須賀 猫塚」(後期展示)
企画展
2015年8月1日(土)~9月27日(日)
前期:2015年8月1日(土)~8月30日(日)
後期:2015年9月4日(金)~9月27日(日)
※前後期で展示替え

8月3・10・17・24・31日/9月1~3・7・14・24日は休館となります。


主催: 太田記念美術館
協力: 公益財団法人 アダチ伝統木版画技術保存財団

錦絵が誕生してから250年。浮世絵版画のワザに迫る!

「錦絵」と呼ばれる、色鮮やかな多色摺木版画の技法が明和2年(1765)に鈴木春信によって確立してから、今年でちょうど250年を迎えます。浮世絵が世界で人気を集めた理由の一つに、この「錦絵」という技術の素晴らしさがありました。  本展では、錦絵誕生250年を記念して、浮世絵版画における超絶技巧のテクニックにスポットをあてます。普段は意識することの少ない、彫りや摺りのワザに注目することによって、浮世絵の新たな魅力が発見できることでしょう。
鈴木春信「風流諷八景 鉢木暮雪」(前期展示)

鈴木春信「風流諷八景 鉢木暮雪」(前期展示)

鈴木春信「水仙花」(後期展示)

鈴木春信「水仙花」(後期展示)

日本髪、着物の柄から刺青まで。ミリ単位のディテールに迫る!

わずか1㎝四方のスペースにも関わらず密集した線。錦絵は、絵師の描いた線を残し、その外側を彫っていきますので、このような細かい線を作り出すことは並大抵の技術ではありません。1㎜以下のディテールにこだわる彫師のワザをご堪能ください。
喜多川歌麿「五人美人愛敬競松葉屋喜瀬川」(前期展示)

喜多川歌麿「五人美人愛敬競松葉屋喜瀬川」(前期展示)

月岡芳年「勇の寿 四代目市村家橘」(後期展示)

月岡芳年「勇の寿 四代目市村家橘」(後期展示)

鮮やかな色、淡いグラデーション。江戸の色彩感覚に迫る!

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期展示)

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期展示)

ポスト印象派の画家・ゴッホが憧れた日本の「光」。それはゴッホが錦絵特有のまばゆい色彩から感じ取ったものでした。鮮やかな色や淡いグラデーションを駆使して華やかな画面を作り上げる、摺師のワザに迫ります。

東洲斎写楽「二代目岩井喜代太郎の鷺坂左内藤浪と初代坂東善次の鷲塚官太夫女房小笹」(後期展示)

東洲斎写楽「二代目岩井喜代太郎の鷺坂左内藤浪と初代坂東善次の鷲塚官太夫女房小笹」(後期展示)

錦絵を支えた彫師と摺師。知られざる名工たちに迫る!

浮世絵と言えば、北斎や広重など、絵師たちの名前ばかり注目を集めますが、錦絵の技術を支えた彫師や摺師の存在を忘れるわけにはいけません。小泉巳之吉や横川竹二郎など、浮世絵版画にサインを残すほどの実力があった名工たちを紹介します。
歌川国貞「東海道五十三次之内 白須賀 猫塚」(後期展示)

歌川国貞「東海道五十三次之内 白須賀 猫塚」(後期展示)

歌川国貞「今様三十二相 逢た相」(前期展示)

歌川国貞「今様三十二相 逢た相」(前期展示)

現代に伝えられる彫りと摺り。現代作家たちによる新世代の木版画に迫る!

アダチ版画伝統木版画技術保存財団では、現代の画家やデザイナーたちとコラボレーションすることによって、新たな木版画作品を生み出しています。加山又造、田中一光、山藤章二、山口晃たちによって現代に継承された木版画の作品を紹介します。
山藤章二「名人六花撰 古今亭志ん生」(アダチ版画伝統木版画技術保存財団蔵)

山藤章二「名人六花撰 古今亭志ん生」(アダチ版画伝統木版画技術保存財団蔵)

山口晃「新東都名所 東海道中 日本橋改」(アダチ版画伝統木版画技術保存財団蔵)

山口晃「新東都名所 東海道中 日本橋改」(アダチ版画伝統木版画技術保存財団蔵)

<見どころの一点>
鈴木春信「風俗四季歌仙 五月雨」(前期展示)

鈴木春信「風俗四季歌仙 五月雨」(前期展示)
明和2年(1765)、「錦絵」と呼ばれる多色摺木版画の技術が確立します。その際、中心的な役割を果たしたのが鈴木春信でした。鈴木春信の華奢で可愛らしい人物表現と、多色摺によるあざやかな画面によって、錦絵の人気は江戸中に広まったのです。この図は、五月雨が降る中、路上ですれ違って会話を交わす女性たち。手拭いを肩にかけているので、湯屋の行き帰りなのでしょう。降り注ぐ雨の描写や、紅・紫・緑を基調とした女性たちの着物の色彩など、彫りや摺りの技術が作品の魅力を支えています。
入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
イベント
特別講演会
9月26日(土)開催予定の特別講演会「浮世絵摺りの実演と解説」の募集は8月31日(必着)をもちまして締め切りました。
学芸員によるスライドトーク

本展の担当学芸員が見どころをご案内します。

日程8月8日(土)・14日(金)・19日(水)・9月5日(土)・11日(金)・15日(火)
時間14:00~(40分程度)
場所太田記念美術館 視聴覚室(B1)
参加方法申込不要 参加無料(要入場券)
開館日カレンダー
カレンダー

浮世絵の戦争画 -国芳・芳年・清親

企画展
2015年7月1日(水)~7月26日(日)

※展覧会図録は作成いたしません。

戦後70年。浮世絵は戦争をどのように描いていたか。

浮世絵と言えば、泰平の世を描いた享楽的な絵という印象を持っている方も多いかも知れません。しかしながら、江戸から明治にかけて、「戦争」を題材とした浮世絵が連綿と描かれ続けていました。太平洋戦争が終結してから70年の節目にあたる今年、これまで全く注目を浴びることのなかった浮世絵の戦争画について紹介します。
歌川貞秀「大内合戦之図」(日本城郭協会提供)

歌川貞秀「大内合戦之図」(日本城郭協会提供)

尾形月耕「日清戦争太孤山沖 日艦戦勝之図」(個人蔵)

尾形月耕「日清戦争太孤山沖 日艦戦勝之図」(個人蔵)

浮世絵でたどる戦争の歴史

浮世絵には、源平時代や戦国時代といった歴史上の合戦を題材としたものから、幕末の戊辰戦争、明治時代の西南、日清、日露戦争など、同時代に勃発した戦争を題材としたものまであります。これらの戦争がどのような目的で描かれ、また、どのような形で表現されているかについて検証します。
月岡芳年「東叡山文珠樓焼討之図 慶応戊辰五月十五日」

月岡芳年「東叡山文珠樓焼討之図 慶応戊辰五月十五日」

小林清親「平壌攻撃電気使用之図」

小林清親「平壌攻撃電気使用之図」

国芳、芳年、清親。有名絵師たちの知られざる作品を紹介。

歌川国芳、月岡芳年、小林清親といった浮世絵師たちは、戦争を題材とした作品をいくつか描いていますが、これまで戦争画そのものに注目が集まることがなかったため、ほとんど紹介される機会がありませんでした。有名浮世絵師たちの知られざる一面を紹介します。
歌川国芳「甲越川中島大合戦」(個人蔵)

歌川国芳「甲越川中島大合戦」(個人蔵)

小林清親「朝鮮豊島海戦之図」

小林清親「朝鮮豊島海戦之図」

<見どころの一点>
月岡芳年「魁題百撰相 駒木根八兵衛」

月岡芳年「魁題百撰相 駒木根八兵衛」
銃口をこちらに向ける男性の視線は緊張感にあふれています。駒木根八兵衛は、寛永14年(1637)、島原の乱に参加した砲術の名人。歴史上の人物なのですが、その姿は、慶応4年(1868)の上野戦争に参加した彰義隊の若者を髣髴とさせる格好で描かれています。当世の出来事を絵画化することが規制されていた江戸時代、歴史上の人物に仮託することによって、現在起きている事件を伝えようとしたのです。
入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
イベント
学芸員によるスライドトーク

本展の担当学芸員が見どころをご案内します。

日程7月3日(金)・9日(木)・18日(土)
時間14:00~(40分程度)
場所太田記念美術館 視聴覚室(B1)
参加方法申込不要 参加無料(要入場券)
開館日カレンダー
カレンダー

江戸の悪

三代歌川豊国「東都贔屓競 二 清玄 桜姫」
企画展
2015年6月2日(火)~6月26日(金)

6月8・15・22日は休館となります。

展覧会の図録は作成いたしません。

浮世絵に描かれた「悪」のイメージ

月岡芳年「英名二十八衆句 福岡貢」

月岡芳年「英名二十八衆句 福岡貢」

人は何故「悪」に惹きつけられるのでしょうか。現代では、テレビドラマや映画、小説などで、悪役は時に主人公を凌ぐほどの魅力をはなつことが少なくありません。そして江戸を生きた人々も、すでにこの「悪」の持つ底知れぬ魅力に気づいていたようです。例えば世間を騒がせた大盗賊が市中引き回しになると、その姿を一目見ようと街道は群衆で埋め尽くされたと言います。また元禄赤穂事件などの大事件が起きると、すぐさま事件は芝居に移され、吉良上野介(『仮名手本忠臣蔵』では高師直)は悪の権化としてのイメージを定着させていくのです。幕末には、「白浪物」の芝居が流行し(白浪は盗賊のこと)、盗賊や小悪党が主人公の舞台が人気を呼びました。当時の人たちは現実、虚構を問わず、「悪」の持つ魅力に好奇心を抱き、時に酔いしれたのです。  本展は、さまざまな悪人たちのイメージを描かれた浮世絵から探る展覧会です。石川五右衛門、鼠小僧次郎吉などの大盗賊、幡随院長兵衛などの侠客、吉良上野介などの歴史上の人物、悪女、小悪党、悪の妖術使いなど、実在した悪人から物語に登場する架空の人物まで、江戸の「悪」が大集合いたします。

1.盗賊・侠客・浪人から小悪党まで―江戸の「悪い人」たちが大集合!

石川五右衛門などの大盗賊、雁金五人男や幡随院長兵衛などの侠客、斧定九郎などの浪人たち・・。江戸時代には、全うな道からはずれたアウトローが人気となり、さまざまな脚色がほどこされて芝居や小説などに登場しました。伝説上・架空の人物から当時の江戸を騒がした実在の大盗賊・小悪党まで、「悪い人」たちが大集合します。
三代歌川豊国「東海道五十三次之内 京 石川五右衛門」

三代歌川豊国「東海道五十三次之内 京 石川五右衛門」

月岡芳年「東錦浮世稿談 神田伯勇 幡随院長兵衛」

月岡芳年「東錦浮世稿談 神田伯勇 幡随院長兵衛」

三代歌川豊国「近世水滸伝 笠川髭造 中村福助」

三代歌川豊国「近世水滸伝 笠川髭造 中村福助」

2.歴史上の悪人たちも勢揃い

日本の歴史上で、悪のレッテルを貼られた人物は数多くいます。中でも元禄赤穂事件で四十七士に倒された吉良上野介は、『仮名手本忠臣蔵』では高師直の名で登場し、歌舞伎の代表的な悪役として広く知られました。他にも菅原道真を陥れた藤原時平、平家の全盛を築いた平清盛など、悪のイメージで捉えられた権力者たちをご紹介します。
歌川豊国「菅原伝授手習鑑 (車引)」

歌川豊国「菅原伝授手習鑑 (車引)」

月岡芳年「平清盛炎焼病之図」

月岡芳年「平清盛炎焼病之図」

歌川広重「忠臣蔵 夜打三 本望」

歌川広重「忠臣蔵 夜打三 本望」

3.悪女・女伊達・ストーカー

悪に手を染める人々は男性とは限りません。江戸時代には、土手のお六に代表される「悪婆」や、女盗賊・女伊達などの役柄も芝居の登場人物として人気を呼びます。また歌舞伎で好まれたのが、時に現代のお昼のドラマも顔負けのどろどろとした恋愛模様。元祖ストーカーとも言える悪僧・清玄と桜姫など、屈折した恋の末に繰り広げられる悪事の数々をご紹介します。
三代歌川豊国「梨園侠客伝 女伊達 団七じまのおかち」

三代歌川豊国「梨園侠客伝 女伊達 団七じまのおかち」

三代歌川豊国「東都贔屓競 二 清玄 桜姫」

三代歌川豊国「東都贔屓競 二 清玄 桜姫」

歌川国芳「浅茅原一ツ家之図」

歌川国芳「浅茅原一ツ家之図」

<見どころの一点>
三代歌川豊国「東海道四谷怪談」

三代歌川豊国「東海道四谷怪談」

悪人中の悪人!民谷伊右衛門と「東海道四谷怪談」

歌舞伎を見たことのない人でも一度は耳にしたことのある、「東海道四谷怪談」。四代目鶴屋南北作による、怪談ものの傑作です。その主役にあたる民谷伊右衛門は、数ある歌舞伎の登場人物の中でも悪人中の悪人と言えるかもしれません。  伊右衛門は産後の肥立ちの悪い妻お岩を厭い、隣家の伊東喜兵衛と結託してお岩に容貌の醜くなる毒薬を飲ませ、伊右衛門に惚れる喜兵衛の娘との結婚を画策します。お岩は悶え苦しんだのちに亡くなり、伊右衛門は家宝の薬を盗んだとがで殺した小仏小平とお岩を一枚の戸板の両側に縛り付け、川に流します。  図は有名な「砂村隠亡堀」の場面で、お岩の恐ろしい容貌が印象に残ります。文久元年(1861)7月中村座での上演を描いたもので、八代目片岡仁左衛門が民谷伊右衛門を演じました。川に流したはずの戸板が、伊右衛門のところに偶然流れ着く「戸板返し」という場面で、戸板の両側に括りつけられた小仏小平とお岩を一人の役者が早替りで演じます。ちなみに本図は「仕掛け絵」と呼ばれる類のもので、紙をめくると実際の戸板返しのように小仏小平とお岩が交互に顔を出すという仕組みになっています。
入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
イベント
学芸員によるスライドトーク

本展の担当学芸員が見どころをご案内します。

日程13日(土) / 19日(金)
時間14:00~15:00~ / 15:00~(40分程度)
場所太田記念美術館 視聴覚室(B1)
参加方法申込不要 参加無料(要入場券)
開館日カレンダー
カレンダー

広重と清親 ―清親没後100年記念

特別展
2015年4月1日(水)~5月28日(木)
前期:2015年4月1日(水)~4月26日(日)
後期:2015年5月1日(金)~5月28日(木)
※前後期で全点展示替え

4月6・13・20・27~30日/5月7・11・18・25日は休館となります。

『百日紅~Miss HOKUSAI~』公開記念 展示期間 2015年5月1日(金)~28日(木)
葛飾応為の代表作「吉原格子先之図」を特別展示! 展示期間 2015年5月1日(金)~28日(木)
(※特別展「広重と清親-清親没後100年記念」後期会期中)

広重VS清親―江戸と明治、巨匠たちの競演

江戸時代、《東海道五拾三次》や《名所江戸百景》などの名作を次々と世に送り出した歌川広重(1797~1858)。広重は確かな構成力とうつろいゆく時間や季節を表現する細やかな感性を武器に、幕末の浮世絵界をリードしました。新時代が幕を開け社会が変動する明治前期、広重が発展させた風景版画の世界に小林清親(1847~1915)という新たな才能が登場します。西洋絵画の技法を吸収した清親は浮世絵師としては異色とも言える「光線画」と称する手法で、文明開化によって様変わりする都市の風景をみずみずしく描き出しました。本展では清親の没後100年を記念し、広重と清親の風景画をはじめ戯画・花鳥画の代表作を多数公開いたします。2人の巨匠の作品からそれぞれの時代の面影に触れる展示です。
小林清親「東京新大橋雨中図(前期展示)

小林清親「東京新大橋雨中図(前期展示)

歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(前期)

歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(前期)

今年は清親の没後100年
―練馬区立美術館と清親展を同時開催

明治時代に活躍し、最後の浮世絵師と称される清親。没後100年にあたる2015年、清親は注目を集めつつあります。静岡市美術館、練馬区立美術館において画業を回顧する展覧会が開催※。太田記念美術館では代表作《東京名所図》、広重へのオマージュがこめられた《武蔵百景》を展示し、広重との比較を通してより深く清親の表現の魅力を掘り下げます。
歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野」(後期展示)

歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野」(後期展示)

小林清親「梅若神社」(後期展示)

小林清親「梅若神社」(後期展示)

歌川広重「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」(後期展示)

歌川広重「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」(後期展示)

小林清親「武蔵百景之内 隅田川水神森」(後期展示)

小林清親「武蔵百景之内 隅田川水神森」(後期展示)

まもなく「東京」誕生150年―江戸から東京への変化を追う

時代を描いた広重と清親。2人の作品は名所の変貌ぶりをよく伝えています。これは明治維新以降、人々の生活や町並みがいかにすさまじいスピードで様変わりしてきたかを反映しています。あと3年で東京が誕生してから150年。東京が辿ってきた変化を、巨匠たちの作品から見直すにふさわしい時代の節目を迎えつつあると言えるでしょう。
小林清親「駿河町雪」(前期展示)

小林清親「駿河町雪」(前期展示)

歌川広重「名所江戸百景 する賀てふ」(前期展示)体的な飾りを縫いつけている。

歌川広重「名所江戸百景 する賀てふ」(前期展示)体的な飾りを縫いつけている。

「広重ブルー」の作品を多数公開

広重の抒情ある風景画は、日本はもとよりゴッホやモネなど海外でも多くの人々を魅了してきました。構図の妙だけでなく、当時新たに登場した絵具「ベロ藍」を繊細に用いた青色も広重作品の魅力。その美しさから「広重ブルー」とも称され愛されてきました。本展では初期作品《東都名所》、出世作となった《東海道五十三次》、晩年の名作《名所江戸百景》など各時代の名品をご覧いただきます。
歌川広重「東都名所 両国之宵月」(後期展示)

歌川広重「東都名所 両国之宵月」(後期展示)

歌川広重「東都名所 吉原仲之町夜桜」(前期展示)

歌川広重「東都名所 吉原仲之町夜桜」(前期展示)

文豪・永井荷風が愛した清親

西洋絵画を学習した清親。それまでの浮世絵版画に見られなかった手法で夕日や月、街灯などが生み出す陰影を繊細に描写し、その作品は「光線画」とも呼ばれます。版画界に新風を吹き込む一方、清親は明治に入り失われつつあった江戸の名残を描き留めていきます。見る者の郷愁を誘う清親の風景画は、江戸情緒を慕う永井荷風が『日和下駄』に記すなど次代の文豪をも魅了しました。
小林清親「両国花火之図」(後期展示)

小林清親「両国花火之図」(後期展示)

小林清親「江戸橋夕暮冨士」(前期展示)

小林清親「江戸橋夕暮冨士」(前期展示)

清親―時代の先端を行く気鋭の絵師

明治10年(1877)、第一回内国勧業博覧会に意欲作「猫と提灯」を出品した清親。当時の版画技術の粋を駆使することで肉筆画のようなタッチを再現し、油絵を思わせる濃厚な画面からは独特のリアリティが放たれています。実は、「最初の洋画家」とも称される高橋由一が有名な「鮭」を発表したのもちょうどこの頃。清親は伝統技術を踏まえたうえで洋画という最先端の表現に挑んだ絵師でした。その先進性は今後より注目されるべきでしょう。
小林清親「猫と提灯」(後期展示)

小林清親「猫と提灯」(後期展示)

ジャポニスムと広重・清親

橋や人のシルエットとガス灯などのきらめきが交差する、肉筆画「開花之東京 両国橋之図」は光や影に対する清親の豊かな感受性を知らしめる作品です。同時期にヨーロッパで活躍したホイッスラーの「青と金のノクターン-オールド・バターシー・ブリッジ」と構図や色彩感覚が非常に類似していることでも知られます。ジャポニスムの旗手でもあったホイッスラー。「青と金のノクターン」は、広重「名所江戸百景 京橋竹がし」の影響を受けていると指摘されています。清親もまた広重作品を参照したのか、それともホイッスラーの作品に触発され本図を描いたのか。その真相はわかっていません。しかし浮世絵と欧米の画壇の影響関係を考える上でも大変興味深い作品と言えます。
歌川広重「名所江戸百景 京橋竹がし」(前期展示)

歌川広重「名所江戸百景 京橋竹がし」(前期展示)

小林清親「開花之東京 両国橋之図」(前期展示)

小林清親「開花之東京 両国橋之図」(前期展示)

入館料割引プラン(清親を巡る 入館料割引プラン)

下記展覧会の入館チケットの半券を当館でご提示いただくと、広重と清親展を100円引きでご覧いただけます。 (1枚につき1名様、1回限り有効※他の割引と併用できません。)

練馬区立美術館「没後100年 小林清親展」2015年4月5日(日)~5月17日(日)

『百日紅~Miss HOKUSAI~』公開記念
葛飾応為の代表作「吉原格子先之図」を特別展示

展示期間 2015年5月1日(金)~28日(木)

※特別展「広重と清親-清親没後100年記念」後期会期中
葛飾応為「吉原格子先之図」(後期展示)

葛飾応為「吉原格子先之図」(後期展示)

葛飾北斎の娘であり、浮世絵師としても活躍したお栄(画号は葛飾応為)を主人公とした長編アニメーション映画漫画「百日紅~Miss HOKUSAI~」が今年の5月9日より全国ロードショーとなります。映画公開を記念し、太田記念美術館では、葛飾応為の数少ない代表作である「吉原格子先之図」を急遽、特別公開いたします。さらに、応為の父親である葛飾北斎、また、「百日紅」で浮世絵師仲間として登場する溪斎英泉(劇中では善次郎)の肉筆画も合わせて展示します。応為、北斎、英泉が実際に描いた作品をご覧いただくことで、映画の世界により深いリアリティーを感じていただけることでしょう。

室内や提灯のきらびやかな光によって、人物たちが真っ黒なシルエットとなって浮かび上がります。強烈なまでの光と影の対比が、幻想的な雰囲気を生み出しています。世界に数点しかその存在が確認されていない、応為の稀少な代表作です。
葛飾北斎「源氏物語図」(後期展示)

溪斎英泉「大原女」(後期展示)

(左)葛飾北斎「源氏物語図」(後期展示)
『源氏物語』の一場面を描いています。制作は文化年間(1804~1818)半ば頃。『百日紅』の舞台となる文化11年(1814)の数年前に描かれた作品です。絵師として駆け出しだっただろう応為が、父親の緻密な筆遣いや華やかな色遣いを目の前で眺め、必死で学びとろうとしていたのかも知れません。
(右)溪斎英泉「大原女」(後期展示)
溪斎英泉(善次郎)の美人画です。制作は文政年間(1818~30)初期頃。『百日紅』の舞台となる文化11年(1814)から数年後の作品です。『百日紅』の中で応為は英泉をヘタクソと馬鹿にしていますが、絵師として独り立ちし始めた英泉の若々しい筆使いが感じられます。

※「吉原格子先之図」は、特別展「広重と清親 ―清親没後100年記念」後期会期中に展示します。

入館料

リピーター割引あり(会期中2回目以降ご鑑賞の方は半券のご提示にて200円 割引)(チケット購入時に半券をご提示下さい。 ※割引の併用はできません。)

一般1000円
大高生700円
中学生以下無料
イベント
『百日紅~Miss HOKUSAI~』公開記念 展示期間 2015年5月1日(金)~28日(木)
葛飾応為の代表作「吉原格子先之図」を特別展示! 展示期間 2015年5月1日(金)~28日(木)
(※特別展「広重と清親-清親没後100年記念」後期会期中)
開館日カレンダー
カレンダー

歌麿・英泉・北斎 -礫川浮世絵美術館名品展

企画展
2015年10月2日(金)~11月23日(月・祝)
前期:2015年10月2日(金)~10月25日(日)
後期:2015年10月30日(金)~11月23日(月・祝)
※前後期で展示替え

10月5・13・19・26~29日/11月2・9・16日は休館となります。

※展覧会の図録は作成いたしません。

はじめに―コレクターの情熱に触れる

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」(前期展示)

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」(前期展示)

礫川(こいしかわ)浮世絵美術館は、医学博士であり浮世絵研究家の故・松井英男氏(1930~2013)によって1998年に設立された浮世絵専門の美術館です。松井氏は日本が世界に誇る文化遺産である浮世絵が数多く海外へ流出している事態を憂え、浮世絵の真価を国内外に伝えるべく作品を収集。40年以上の歳月をかけて形成された松井コレクションに収められた作品は、約2400点にも及びます。なかには歌麿や北斎など人気絵師の代表作品をはじめ、初期の浮世絵版画や初摺など貴重な作品が含まれており、国内でも屈指の浮世絵コレクションとして知られてきました。しかし礫川浮世絵美術館は2014年3月をもって閉館しました。同館の所蔵品として優品の数々を公開する機会としては、本展が最後となります。今回は厳選した名品をご覧いただくとともに、浮世絵研究に偉大な足跡を残した松井氏のご研究にも触れます。松井氏が愛した珠玉の浮世絵をご紹介する貴重な機会を、どうぞお見逃しなく。

喜多川歌麿「当時三美人」(後期展示)

喜多川歌麿「当時三美人」(後期展示)

溪斎英泉「美艶仙女香 はつ雪や」(前期展示)

溪斎英泉「美艶仙女香 はつ雪や」(前期展示)

巨匠たちの名品が勢揃い

表情豊かな女性たちをとらえる歌麿、英泉の美人画。雄大な自然を切り取る北斎の風景画、ユーモラスな国芳の戯画――。松井コレクションには誰もがその名を知る巨匠たちの代表作品が含まれています。しかしそれだけではありません。同コレクションには浮世絵版画の黎明期をリードした菱川師宣や奥村政信から、月岡芳年など幕末明治に活躍した絵師まで、その優品が収めらています。17世紀から19世紀にいたる名品を介して、浮世絵の歴史を通覧できるのも本展の見どころのひとつです。
鈴木春信「丑の時参り」(前期展示)

鈴木春信「丑の時参り」(前期展示)

歌川国芳「人をばかにした人だ」(後期展示)

歌川国芳「人をばかにした人だ」(後期展示)

松井コレクションのこだわり(1)―青色の歴史を紐解く

医学部の大学教授を退官後、浮世絵研究に注力された経歴を持つ松井氏。同氏は浮世絵研究にも科学的な視点を持ち込み、コレクション作品を中心に絵具の成分分析、特に露草や藍(本藍)、ベロ(ベルリンブルー、ベロ藍とも)といった青色絵具について詳細な分析を行いました。近年、浮世絵に見られるベロの美しさが注目を集めるようになっていますが、このベロにいたる青色絵具使用の変遷の解明において、松井氏らの科学的な調査が大きく貢献しています。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期展示

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期展示

歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」(後期展示)

歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」(後期展示)

松井コレクションのこだわり(2)―初摺(しょずり)を見よ!

江戸市民が気軽に購入できた浮世絵は、人気のある作品ほど何度も摺られました。そのなかでも最も早い摺りを初摺と言います。初摺は絵師の立ち会いのもと行われたため、絵師の作品イメージが最もよく反映されています。よって、絵師たちが目指した本来の美しさを知るには、初摺を見ることが大変重要です。その意義深さを重んじた松井氏のコレクションには多くの初摺、あるいはそれに近い作品が収められました。本展では初摺作品もご紹介し、江戸の人々も目にした名品の輝きをご覧いただきます。

<見どころの一点>
勝川春章「ふみ月 たなばた 草市」(前期) 明和(1764~1772)末頃

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦」(前期展示)

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦」(前期展示)

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦(校合摺)」(前期展示)

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦(校合摺)」(前期展示)

澄み渡る冬空の下、雪見を楽しむ人々を描いた「冨嶽三十六景 礫川雪ノ旦」。雪の白と空の青との対比が美しい一枚です。この鮮やかな青色は、本図が制作された1831年(天保3)頃に浮世絵制作に導入された青色絵具、ベロによるもの。ベロは水溶性で水の配合によって濃淡が付けやすいことから、微妙に移ろう空や水辺の青色の表現を可能としました。北斎の画業を代表する「冨嶽三十六景」は青色が大変効果的に用いられたシリーズですが、その成功にはベロの存在が欠かせなかったのです。また本図の校合摺(輪郭線を彫った主版(おもはん)を摺ったもの)もあわせてご紹介します。じつは「冨嶽三十六景」シリーズの早い段階の作品は輪郭線も青色です。かつては輪郭線もベロと推測されていましたが、松井氏らの成分分析によって藍が用いられていることが判明。世界的傑作は、藍とベロ、新旧の青色絵具の調和によって生み出されていたことが知られるようになったのです。さらに本図は、文京区小石川に設立された美術館の名称の由来となった作品でもあり、まさに松井コレクションを象徴する名品のひとつと言えるでしょう。
入館料
一般700円
大高生500円
中学生以下無料
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