2012年度の展覧会
春信・清長・歌麿とその時代
展覧会の概要
浮世絵が江戸の庶民たちを魅了しはじめ、不動の人気を築いた18世紀後半、その流行を牽引していたのが、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿という三人の絵師たちでした。彼らは町中で話題となった美しい女性たちや、庶民たちの暮らしの何気ない一場面を、愛情ある眼差しで描きとめています。本展覧会では、春信、清長、歌麿という巨匠たちの作品を展示するとともに、礒田湖龍斎や勝川春章、鳥文斎栄之といった、同時代に活躍したライバルたちの作品もあわせて紹介いたします。「浮世絵らしい浮世絵」と呼ぶのにふさわしい、江戸情緒あふれる雅やかな作品の数々をご鑑賞ください。
1.鈴木春信 フルカラーの衝撃
浮世絵と言えば、明るい色に溢れた色鮮やかな版画を思い浮かべる人も多いでしょうが、浮世絵版画がたくさんの色数で摺られるようになるまでにはかなりの時間を要しています。このような多色摺の浮世絵版画のことを「錦絵(にしきえ)」と呼んでいますが、錦絵が誕生するのに大きな役割を果たしたのが、鈴木春信でした。今まで2、3色しか用いられなかった浮世絵版画が、春信の手を経ることによって錦の織物のように色鮮やかな世界へと移り変わったのです。2.鳥居清長 さわやかな江戸の美女たち
鈴木春信の没後、新たな女性像を描くことによって人気を博したのが鳥居清長でした。春信の描く子どものような可愛らしい姿をがらりと一変させ、まるで外国人モデルのような、背の高いすらりとしたプロポーションの美人たちを浮世絵の世界に登場させたのです。さわやかで健康的な女性たちの姿は、活気にあふれ、経済的にも文化的にも成熟していこうとする江戸の町の空気を反映したものでした。3.喜多川歌麿 浮世絵史上No.1の美人画絵師
鳥居清長に替わり、時代の寵児となったのが喜多川歌麿です。歌麿と言えば、何と言っても美人画。ちょっとした顔の傾きや手の動きという何気ない仕草で、女性の美しさを捉えてしまう表現力は、歴代の浮世絵師の中でもナンバー1の実力でしょう。特に、女性の上半身を大きくアップで描いた「大首絵」では、女性の内面の感情までも見事に描き出しています。<見どころの一点>
喜多川歌麿「五人美人愛敬競 松葉屋喜瀬川」
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 | 第1回4月1日(日)/第2回4月13日(金) |
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時間 | 各14:00~(30分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) 4 月1日の日曜映写会は、11時の回のみ実施。 |
開館日カレンダー
空からの眺め -大江戸八百八町
はじめに
東京の新名所、東京スカイツリー®が話題となっています。今も昔も、人々は高い所から眺望を楽しむことが大好きなようで、江戸時代には飛鳥山や愛宕山、五百羅漢寺の栄螺(さざえ)堂といった眺めの良い場所が人気を呼びました。浮世絵にはこうした場所に集まり、眼下に広がる景色を楽しむ人々が描かれています。
また浮世絵師たちは、まるで現代の高層タワーや、飛行機から地上を眺めたかのような俯瞰視点により、名所や街並みを描いた作品を残しています。今でこそ、インターネットで世界の各地の様子を自由に拡大して見ることができるようになりましたが、江戸時代の浮世絵師たちは、想像力と絵筆のみを駆使してはるか上空に視点を定め、これらの俯瞰による作品を描いているのです。
本展は、広重や北斎などの作品を通じて、空から当時の江戸の様々な場所を眺めるという企画です。江戸の浮世絵師たちの自由な想像力を感じることはもちろん、今の東京にも劣らない、江戸八百八町のにぎわいの様子をお楽しみください。
超高層タワーから江戸の町を眺めてみたら?
もし江戸時代に東京スカイツリー®が立っていたら?という想像を働かせてみましょう。周囲には浅草寺や三囲神社、新吉原の遊郭、猿若町の芝居といった江戸の名所・悪所がずらり。浮世絵師たちはこれらの場所を俯瞰視点で数多く描いています。展望台に登った気分で、当時の浅草周辺を見てみましょう。まるで航空写真? 俯瞰でみる江戸八百八町の眺め
まるでインターネット上でみるマップや、航空写真のように、浮世絵師ははるか上空に視点を定め、眼下に広がる街並みを描き出しました。選ばれた題材は両国や日本橋などの繁華街や、各地の神社仏閣、遊郭などさまざま。上空からみた江戸八百八町のにぎわいを感じてみてください。<注目の作品>
鳥の視点で江戸を見下ろす
歌川広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」
画面上部に大鷲が描かれ、遙か下方には雪景が広がっています。鷲の視線の先には海を漂う一つの桶。遠景に霞んで見える山は筑波山です。鳥を大きく手前に捉えた大胆な構図が、まるで空を飛んでいるかのような感覚を見るものに与えます。広重の自由な想像力が遺憾なく発揮された作品といえるでしょう。深川十万坪とは、現在の江東区石島・千田・千石の海辺付近にあたります。
今も昔も人々は高い場所がお好き
現代の超高層タワーのように、江戸時代にも見晴らしの良い場所は名所として人々に親しまれました。浮世絵には、目黒の五百羅漢寺の栄螺堂、増上寺の三門といった建物や、飛鳥山、愛宕山など眺めの良い場所から景色を楽しむ人々が描かれ、当時の人気を偲ぶことができます。<見どころの一点>
左:歌川国芳 「東都三ツ股の図」(個人蔵)
右:葛飾北斎「冨嶽三十六景 東都浅艸本願寺」
昨今話題を呼んでいる人気の絵師、歌川国芳。国芳が描いた「東都三ツ股の図」には、東京スカイツリー®に似た不思議な塔が描かれているとして、新聞などで話題となりました。実は、このような塔は国芳だけではなく、北斎や広重の作品にも描かれています。この塔の正体とは一体何でしょうか?実は、そのヒントを国芳自身の絵にあるようです。「子供遊金生水之堀抜」という作品には、不思議な塔そっくりの井戸掘り用の櫓が描かれているのです。本展では、この「東都三ツ股の図」「子供遊金生水之堀抜」を特別出展するとともに、北斎や広重が同様の櫓を描いた作品もあわせてご紹介いたします。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 | 5月22日(火)
ご好評により日程追加! ※以下の日程は終了致しました。 5月3日(木・祝)/5月11日(金) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
開館日カレンダー
浮世絵猫百景 -国芳一門ネコづくし
後期:2012年6月30日(土)~7月26日(木)
※前後期で展示替え
6月4・11・18・25・27~29日/7月2・9・17・23日は休館となります。
※ 6.7月展示の図録「浮世絵猫百景ー国芳一門ネコづくしー」は完売致しました。
浮世絵猫百景 -国芳一門ネコづくし展作品リスト [537KB]
はじめに
古今東西を問わず、私たち人間の最も身近な動物である猫。江戸時代の人々も猫をペットとして可愛がっていました。近年、猫の可愛らしい姿を捉えた写真集や動画が人気ですが、それは江戸時代にも同じだったようです。江戸庶民の生活を活写した浮世絵のなかには、飼い主のそばでまどろむ猫、じゃれつく猫の姿を多く見つけることができます。しかし浮世絵に描かれる猫は、愛らしいだけではありません。説話に登場する恐ろしい化け猫や、人間のようにふるまうユーモアあふれる擬人化された猫たちも大活躍。そのバラエティー豊かな作品群からは、猫がいかに江戸の人々の生活に溶け込み、そして愛されていたのかが伝わってきます。
近年注目を集める歌川国芳は、そんな猫愛でる江戸っ子の代表格の一人です。家には常に十数匹の猫を飼っていたと伝えられる国芳が描く猫たちは、いきいきとして愛嬌たっぷり。今回の展示では国芳とその弟子たちの作品をはじめとする浮世絵243点が大集合します。登場する猫はなんと2321匹。人と猫が織りなす豊かな世界は、浮世絵ファンならずとも十分にお楽しみいただけることでしょう。
1.江戸猫2321匹大集合 ―江戸時代は猫ブーム?!
くるくると変わる豊かな表情、きままに動きまわる様子が猫の魅力。そんな猫の魅力に触発された浮世絵師たちのイマジネーションは、ユニークな作品を次々と生み出しました。浮世絵に登場する動物で最も多いのは猫である、と言っても過言ではないでしょう。例えば国芳は、擬人化された猫が画面せましと活躍する作品をはじめ、何匹もの猫が集まって文字を作るという奇抜なアイディアも披露しています。はては伊達男や美人の着物に猫の柄を用いたものまで手がけました。浮世絵師たちの猫に対するその発想の豊かさには、今見ても驚かされるものがあります。
2.国芳一門が勢ぞろい
豊富なアイディアを駆使し猫の絵を描いた国芳。その国芳の情熱は、弟子たちにも脈々と受け継がれました。血みどろ絵で知られる月岡芳年は可愛らしい飼い猫を、子ども向けの版画である「おもちゃ絵」を得意とした芳藤は、猫が人間のように振る舞う作品群を世に送り出しました。ほかにも本展では芳幾、芳虎、芳玉、芳員、芳艶など国芳一門の絵師による作品が勢ぞろいします。絵師たちの猫の姿を見比べてみるのも楽しいかもしれません。3.国芳の珍しい作品を紹介
現在では1点しか確認されていない「流行猫じゃらし」、今回が初めての展観となる団扇絵など、国芳の珍しい作品もご紹介いたします。4.江戸っ子をなごませた猫の玩具
幕末から明治半ばにかけて作られた、子供向けの版画「おもちゃ絵」。おもちゃ絵には人間のように暮らす猫をはじめ、数えきれないほどの猫たちが登場しています。また、庶民の生活を彩った土人形や、当時のボードゲームである十六むさしのなかでも、駒が猫と鼠となっている一点をご紹介いたします。5.時代を反映する猫の姿
庶民の生活とともにあった猫。猫を描いた浮世絵は、時には時代背景をも映し出しました。絵師たちは、幕末の動乱や、西洋文化の流入によって変化した生活様式などを猫の姿を借りて表現しました。展覧会構成
- 第一景 猫百変化
- 第二景 猫の一日~遊んで眠ってしかられて~
- 第三景 猫のお化け
- 第四景 猫は千両役者
- 第五景 猫の仕事・猫の遊び
- 第六景 猫の事件簿
- 第七景 猫のまち
- 第八景 猫の絵本
<見どころの一点>
歌川芳藤「小猫を集め大猫にする」(前後期展示)
振り返るような仕草をする三毛猫。実は、この猫は19匹もの猫たちが集まってできたものなのです。目を凝らすと猫たちが色々なポーズをとって重なり合っているのがわかります。この絵の作者である歌川芳藤は国芳の弟子の一人。物を寄せ集めて別の物を作り上げる手法を「寄せ絵」と称しますが、国芳は寄せ絵にも遊び心あふれる名作を残しています。本作から芳藤は、国芳のユーモアのセンスを多分に受け継いだ絵師であることがよくわかります。なお画中に記された文字には「猫の子の小猫を十九あつめつつ 大猫にする画師(えし)のわざくれ」とあります。「わざくれ」とは、いたずらや戯れといった意味。当時の人々にとってもユニークな作品として喜ばれたことでしょう。
大猫の姿は少し不気味でもありますが、猫たち一匹一匹の表情はとても優しげです。芳藤は国芳からユーモアだけでなく、猫へのあたたかい眼差しも受け継いだようです。
入館料
リピーター割引あり(会期中2回目以降にご鑑賞の方は、半券と引換にて100円割引)
一般 | 1000円 |
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大高生 | 700円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
東海道五十三次の世界 -広重と国貞
後期:9月1日(土)~9月26日(水)
※前後期で展示替え
8月6・13・20・27~31日/9月3・10・18・24日は休館となります。
※8、9月展示の図録は作成いたしません。
東海道五十三次の世界 -広重と国貞展作品リスト[395KB]
はじめに
江戸と京を結ぶ街道、東海道。江戸時代後半には庶民の間でも旅への関心が高まり、多くの人々が伊勢神宮や京を目指して街道を行き交いました。そのような流れに眼をつけ、浮世絵師や版元は東海道をテーマとした浮世絵を制作します。中でも、空前の大ヒット作となったのが広重による保永堂版「東海道五拾三次之内」のシリーズ。以降、東海道ものは売れ筋のジャンルとして多数の作品が出版されていきます。
今回の展覧会がテーマとするのは、さまざまな絵師によって生み出された東海道ものの浮世絵。歌川広重の名作、保永堂版「東海道五十三次之内」はもちろんのこと、本展で注目するのは歌川国貞(のち三代豊国)による作品です。「保永堂版」と美人画を組み合わせた、通称「美人東海道」、広重とのコラボレーションによる作品「双筆五十三次」などを出品。その他にも、広重に先駆けて東海道を題材にした北斎の作品、近年の人気の高い国芳の作品など、バラエティに富んだ東海道ものの世界をご紹介いたします。これらの浮世絵を通して、江戸の人々が楽しみ、憧れた「旅」の雰囲気を感じ取って見てください。
江戸の人々が抱いた「旅」への憧れ―広重の名品を出展
江戸時代後半になると街道の整備が進み、また十返舎一九作『東海道中膝栗毛』の大ヒットなどによって庶民の旅への関心が高まっていきます。また実際にお伊勢参り、金毘羅参りなどの名目で旅にでる人たちも大勢いましたが、当時の旅は金銭的にも、安全面でも、決して気軽にできるものではなかったようです。そのような中、人気を博したのが東海道五十三次の各宿場を題材にした浮世絵。特に名作として知られ、出版当時も大ヒットしたのが歌川広重による保永堂版「東海道五拾三次之内」シリーズです。その叙情的な作風は、実際に旅に出られないひとたちの、旅への憧れをも満たしてくれるものだったのでしょう。本展では、「保永堂版」を含む広重の東海道ものの名作をご紹介いたします。「人物」の国貞と「風景」の広重、夢のコラボレーション作品とは?
歌川国貞は、役者絵などの人物画を描いたら右に出るものはいない、当時の大人気絵師。国貞は、得意の「人物」を描く腕前を生かした東海道ものの作品を手がけました。例えば広重の「保永堂版」の背景を引用し、前面に美人を描いた、通称「美人東海道」という作品や、歌舞伎役者ととともに東海道の宿場を描いた通称「役者東海道」などの作品を描いています。そんな「人物」の国貞と、「風景」の広重による豪華なコラボレーション作品といえるのが「双筆五十三次」というシリーズもの。本作は、広重が背景の風景画を、国貞(三代豊国)が前面の人物画を分担して描いたというユニークな作品です。北斎も、国芳も描いた東海道
江戸の人々が夢中になった東海道ものの錦絵。数多く出版された東海道ものを描いたのは、広重や国貞だけではありません。「冨嶽三十六景」で有名な葛飾北斎は、意外にも広重に先駆けて、人物描写を中心とした東海道もののシリーズを幾つも手がけています。東海道といえば広重という印象が強いですが、実は広重以前に東海道ものの絵師といえば北斎のことだったのです。また、近年人気の歌川国芳は、戯画や武者絵と並んで風景画も得意としましたが、広重と同じ頃に東海道の宿場を描いたシリーズ物を手がけています。人気絵師たちによる、さまざまな東海道ものの作品をご紹介します。<見どころの一点>
歌川広重「東海道五拾三次之内 三島 朝霧」(後期展示)
霧の立ち込める朝の大気を描く
東海道11番目の宿場町、三島宿。東海道最大の難所、箱根を越えてきた旅人、あるいはこれから箱根に向かう旅人たちが宿をとり、大いに賑わいました。本図は、朝霧の立ち込める三島宿の早朝の空気感を、階調の異なるシルエットを摺り分けて巧みに表現しています。画面右にやはりシルエットで描かれるのは、三島大社の鳥居。三島大社は東西に伸びる東海道の北側に位置していたことから、本図では手前が江戸方面、奥が京都方面と考えられています。駕籠にのる人物や、後方で乗掛馬に乗る人物は、まだ早朝だからか、うとうとと眠っているようです。早朝という時間設定や、朝霧という気候の巧みな描写が、まるで当時の江戸を旅しているかのような臨場感を見るものに与える秀逸な1点と言えるでしょう。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 | 8月3日(金)・11日(土)・19日(日)・/9月2日(日)・7日(金)・16日(日) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
開館日カレンダー
没後120年記念 月岡芳年
後期:2012年11月1日(木)~11月25日(日)
※前後期で展示替え
10月1・9・15・22・29~31日/11月5・12・19日は休館となります。
没後120年記念 月岡芳年展作品リスト[583KB]
国芳を継ぐ最後の浮世絵師 月岡芳年の大回顧展
近年ブームとなっている浮世絵師、歌川国芳。この国芳の門弟であり、実力と人気、二つの面から見て国芳の後継者と呼ぶにふさわしいのが月岡芳年です。動乱の幕末期から新時代を迎えた明治期にかけて活躍しており、浮世絵の歴史の最後を彩った人物として、しばしば「最後の浮世絵師」とも称されています。本展覧会では、代表作や新発見を含む200点以上の作品を通して、今年没後120年を迎える月岡芳年の全貌を紹介します。東京で17年ぶりに開催される大回顧展となります。谷崎潤一郎、江戸川乱歩、三島由紀夫が愛した芳年の全貌を紹介
おびただしい血が流れる残酷な場面を描いた芳年の血みどろ絵は、谷崎潤一郎や江戸川乱歩、三島由紀夫など、大正・昭和に活躍した文学者たちにさまざまなインスピレーションを与えました。しかしながら、芳年の魅力はそのような血みどろ絵だけにとどまらず、緊迫感あふれる構図で描いた歴史画や妖怪画、女性たちの心の動きに迫った美人画など、さまざまな作品にも見出すことができます。「英名二十八衆句」や「魁題百撰相」などの血みどろ絵はもちろん、歴史画の「月百姿」や妖怪画の「新形三十六怪撰」、美人画の「風俗三十二相」など、芳年の代表作を余すところなく紹介します。美術史空白の時代を見直す
幕末から明治前半という時期は、従来の美術史では無視され続けてきた、言わば空白の時代ですが、近年、芳年の師匠である歌川国芳がブームとなったり、河鍋暁斎や濤川惣助といった明治の絵師や工芸家が見直されたりするなど、ようやく正当な評価がされ始めるようになりました。芳年の作品を時代順に展示することで、幕末から明治にかけての芳年の活躍を新たに定義し直します。
新発見となる下絵を初公開
芳年の門人である明治の日本画家、水野年方の旧蔵となる芳年の下絵が、今回新たに発見されました。晩年の三枚続の錦絵「袴垂保輔鬼童丸術競図」、「曽我時致乗裸馬駆大磯」の下絵も含まれ、芳年の筆遣いはもとより、芳年がどのように版画を制作していたかの過程を鑑賞することができます。<見どころの一点>
「魁題百撰相 冷泉判官隆豊」(個人蔵)前期展示
歴史上の武将たちの姿に、幕末の上野戦争で戦った彰義隊の人々を重ね合わせたシリーズです。戦国武将の冷泉隆豊は戦いに敗れて切腹する際、腹部から出た自らの内臓を天井へと投げつけるという壮絶な最期を遂げました。鼠色がかった顔面や赤く血走った眼、薄紫色の唇と舌を見た小説家・江戸川乱歩は「芳年は死のお化粧が何と巧みであったことか」と評しました。
国芳、芳年、清方を巡る 入館料相互割引プラン!
本展のチケットを以下2つの美術館でご提示いただくと、各展覧会を割引価格でご覧いただけます。また、下記いずれかのチケットを当館でご提示いただくと、「没後120年記念 月岡芳年」展を200円割引でご覧いただけます。 (1枚につき1名様、各展覧会1回限り有効)横浜美術館
「はじまりは国芳」展
2012年11月3日~2013年1月14日
※観覧料 各種200円引
鎌倉市鏑木清方記念美術館
「清方描く 江戸の残り香」展
2012年11月3日~12月9日
※観覧料 各種50円引
入館料
リピーター割引あり(会期中2回目以降ご鑑賞の方は、半券のご提示にて100円割引)
一般 | 1000円 |
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大高生 | 700円 |
中学生以下 | 無料 |
開館日カレンダー
楊洲周延「東錦昼夜競」 -歴史・伝説・妖怪譚
12月3・10・17日は休館となります。
※12月展示の図録は作成致しません。
周延の没後100年となる今年、本展覧会では、周延が明治19年(1886)に制作した「東錦昼夜競(あずまにしきちゅうやくらべ)」を紹介いたします。神話の時代から江戸時代にかけて、さまざまな歴史故事や伝説、あるいは妖怪譚などを題材としたシリーズで、全50点、一挙の公開となります。
また、同時代に制作された月岡芳年の晩年の代表作「月百姿」から30点を合わせて展示いたします。周延と芳年、二人の人気浮世絵師が歴史や伝説、妖怪譚にどのように取り組んだのか、その個性の違いもご堪能いただけることでしょう。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 | 12月2日(日)・8日(土)・14日(金) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
開館日カレンダー
新春浮世絵展
はじめに
新しい一年を迎えるお正月。江戸時代の人々もまた、現代の私たちに負けず劣らず新年の訪れを楽しんでいました。元旦、海から昇る初日の出を拝みに人々は出かけました。また様々な芸人たちが新年を祝い、子供たちは羽根つきや凧あげなどに興じました。他にも初詣や初買い、神社仏閣でも新春ならではの行事が催されます。江戸っ子たちも新しい一年が幸多いものになることを願い、また非日常感がただようお正月気分を満喫したのでした。本展では押し迫る年の瀬から、新年を迎えおめでたい空気に包まれた江戸の町の様子などを、浮世絵を通して紹介いたします。作品を観賞しながら、江戸っ子とともに新春の風景をお楽しみ下さい。
元旦 一年の始まり
年の瀬、新年を迎えるために人々は歳の市で正月の飾り物や食料品を買い揃えます。賑やかな大晦日から一転、元旦は商家をはじめ多くの家々が戸を閉じて静かに過ごしました。そんな元旦の楽しみの一つは初日の出。浮世絵には見物に繰り出す人々の姿が数多く描き出されています。一方、諸大名たちにとっては、正月に江戸城に登城することが重大な年中行事でした。それぞれの元旦の様子をのぞいてみましょう。新年の芸能・遊び・行事
新しい一年が幸多きものとなるように。そのような願いを込めて、江戸時代には万歳・春駒・鳥飼・太神楽などの芸能民が江戸市中をまわりました。新年の遊びとして子供たちに人気だったのが凧揚げや羽根つき。遊びに夢中になった子供たちが往来の邪魔をしても、この日ばかりはお咎めなしだったそうです。また、正月の縁日も江戸っ子にとっては楽しみのひとつでした。新春の風習や行事を人々がいかに楽しんでいたのかを、浮世絵はいきいきと伝えています。<見どころの一点>
歌川国芳・歌川国貞・溪斎英泉「宝船」
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 | 1月6日(日)・13日(日)・18日(金) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
開館日カレンダー
幕末・明治の美女たち
はじめに
浮世絵の長い歴史の中で、常に人気のジャンルであったのが「美人画」、つまり当時の美しい女性たちを描いた作品です。本展でテーマとするのは、その中でも幕末から明治にかけての時代です。大きく世の中が移り変わり、西洋の文化が流入する中で、女性たちは過ぎゆく江戸の装いや、あるいは最新の西洋風の髪型や衣装に身を包み、ファッションを楽しみました。当時活躍した浮世絵師たちも、魅力的な女性たちの姿を浮世絵に数多く描いています。本展は三代歌川豊国が描いた幕末の美人大首絵「今様三十二相」、月岡(大蘇)芳年の美人画の代表作「風俗三十二相」、楊洲周延による揃物「真美人」など、当時描かれた美人画を多数展観しながら、激動の時代に生きた美人たちの姿をご紹介する展覧会です。
幕末 ―混迷の時代に描かれた美女たち
幕末から明治維新にかけては、国内の政治は不安定となり、幕府や朝廷、諸藩を巻き込んで幾度も戦争が起きています。そのような時代の中、浮世絵師や版元は時に諷刺的な作品を出版する一方で、従来通りの美人画や役者絵といった浮世絵をたくましく出版し続けました。例えば三代歌川豊国の晩年の美人画の揃物「二五五四好今様美人」が描かれた文久3年(1863)は、歴史的には下関事件や薩英戦争が起きた時期にあたります。しかし、美しい彫と摺に彩られた美人画は、まるで当時の混乱した世相とは無関係であるかのように華やかです。明治維新 ―新しい時代を彩る美女たち
明治維新を迎えると、国家の制度や建築、交通、衣食住など、さまざまな分野に西洋の文化が影響を及ぼしました。明治の先進的な女性たちの中にも、髪型や服装などに西洋風と取り入れる人々が出てきます。浮世絵師たちが描いた美人画の揃物の中には、時折そんな洋装の女性たちが登場しています。例えば月岡芳年が描いた「風俗三十二相 遊歩がしたさう 明治年間妻君之風俗」に描かれるのは、上流階級と思われる西洋のファッションに身を包んだ若い女性の姿。花の飾りのついた帽子をかぶり、洋傘を手にした女性のセンスの良さに目を見張ります。鹿鳴館での演奏会での様子を描いた楊洲周延「欧洲管絃楽合奏之図」なども注目の作品です。
江戸への懐古 ―追憶の中の美女たち
当時、多くの分野で西洋の文化が広まる一方で、浮世絵では、失われゆく江戸の風俗を懐古するような風潮も見られました。例えば楊洲周延が描いた美人画の揃物「時代かゞみ」では、「慶長之頃」(慶長時代、1596~1615)、「宝永之頃」(宝永時代、1704~11)といった題名で、江戸時代のさまざまな時代の美人の風俗を描き分けています。「宝永之頃」では宝永の大噴火の頃の富士山を画面上に配し、手前に当時の風俗の女性を描きます。他にも芳年の弟子、水野年方が描いた揃物「三十六佳撰」など、明治の人々が浮世絵を通して懐かしんだ、古き良き時代の女性像を紹介いたします。<見どころの一点>
豊原国周「見立昼夜廿四時之内 午前十時」
今年の大河ドラマ「八重の桜」の主人公、新島八重の生涯が話題となっています。その中で、会津若松城での籠城や日清・日露戦争での従軍看護婦としてのエピソードとともに、夫・新島襄と日本人同士では初のキリスト教式結婚式を挙げたことがよく知られています。
キリスト教は明治の初頭にはまだ禁止されており、弾圧がありましたが、諸外国の抗議によって明治6年に解禁され、以降広まりました。浮世絵師たちも、当時多く描かれた西洋の新しい文化のひとつとして、キリスト教を題材にしています。豊原国周の描いた「見立昼夜廿四時之内」は、一日のさまざまな時間帯を題材にして、美人を描いた作品。そのうち「午前十時」には、三味線の弦を調整している芸者とともに、コマ絵にはキリスト教の教会が描かれています。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 | 2月1日(金)・10日(日)・15日(金) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |
開館日カレンダー
江戸っ子味めぐり
はじめに
いまや世界中で愛されるようになった和食。食材や調味料が充実し、現在の和食に通じる食文化が花開いたのが江戸時代でした。将軍のお膝元であった江戸には近郊の農村や漁村から豊富な食材が集まりました。江戸時代中期以降には、料理の技術も発展し、江戸の人々に好まれる味付けも定着していきます。
江戸っ子は初ものに喜び、花見などの行楽にはお弁当を持って出かけました。現在も人気の料理である蕎麦や天ぷらは、屋台で手軽に食べることができる、いわばファーストフードの一つとして、単身の男性が多く暮らす江戸では大いに親しまれていました。一方、高級料亭も江戸市中には多く存在し、書画会の会場となるなど、文化サロンとしての役割を果たすこともありました。
また、食べ物や料亭をランキングした番付も数多く制作されており、これらからは、当時の人々が美味しいものを食べるだけでなく、食事をする空間をも貪欲に楽しんでいたことを知ることができます。食材や料理法だけでなく、江戸時代には現代へと通じる食文化の様々な側面が育まれていたのです。
庶民風俗を描く浮世絵のなかには、当時の食生活の一端を垣間見せてくれる作品が数多くあります。本展では、料理にまつわる浮世絵を紹介いたします。江戸っ子が楽しんだ食文化に触れていただければ幸いです。
1.季節を味わう
お正月のお屠蘇から、花見で食べる行楽弁当、月見団子に年末の餅つきまで。江戸時代にも一年を通して様々なイベントがありました。浮世絵からは、江戸っ子が折々の行事ならではの食事を味わっていたことが分かります。
2.お食事処あれこれ ―屋台から高級料亭まで―
現代人はファーストフードから高級レストランまで、多様なスタイルで料理を楽しんでいます。同じように江戸時代後期には、屋台をはじめ高級料亭にいたる幅広い様式のお食事処が江戸の市中のあちこちに存在していました。ここでは江戸っ子の食事スタイルを覗いてみましょう。
3.多彩なメニューに舌鼓
野菜、魚介、果物にお菓子。江戸の庶民が口にした料理は実に多様です。江戸時代後半には、それまで禁忌とされた獣肉も食されるようになりました。さらには旅行が徐々に身近になると、旅人にとって各地の名物、いわゆる「ご当地グルメ」も旅の楽しみのひとつとなっていったのです。<見どころの一点>
歌川国貞(三代歌川豊国)「十二月の内 卯月 初時鳥」
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |
イベント
学芸員によるスライドトーク
本展の担当学芸員が見どころをご案内します。
日程 | 3月3日(日)・8日(金)・17日(日) |
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時間 | 14:00~(40分程度) |
場所 | 太田記念美術館 視聴覚室(B1) |
参加方法 | 申込不要 参加無料(要入場券) |